【試乗】単なるオマージュじゃない! ドライバーを興奮させる新型アルピーヌA110の走り (1/2ページ)

昔のファンもいまどきのクルマ好きも満足できる完成度

 いよいよ新型アルピーヌA110が街を走り出す。アルピーヌの復活が宣言されたのが2012年。かなり現実味がありそうに思える最初のコンセプトカーがお披露目されたのは2015年。心を躍らせながら動向を見つめていたファンにとっては、まさしく待ちに待った、という感じだろう。新世代のアルピーヌはどんな性格を持っているのか、気になって仕方なかったことだろう。

 でも、どうかご安心を。日本導入まではもうしばらく待たなければならないけれど、新しいA110は古くからのファンも、かつてのアルピーヌを知らないクルマ好きも、存分に満足できるだろうクルマに仕上がっていた。アルピーヌA110

──と先走る前に、アルピーヌA110というクルマについて少し説明をしておく必要があるかも知れない。欧州車好きやヒストリックカーのファン達の間では広く知られる存在ではあるけれど、とりわけ若い読者のなかには知らないという人がいても不思議はないからだ。アルピーヌは1995年に休眠に入り、2012年までその名前が正式に表舞台に出ることはなかった。

 アルピーヌは、モータースポーツに傾倒していたフランスの実業家、ジャン・レデレによって創設されたコンストラクターだった。レデレ自身がドライバーとしてル・マンやラリー、公道レースなどを走っていたこともあり、競技のためのスペシャルマシン製作という欲求が膨らみ始めたことがアルピーヌ誕生のきっかけになった。

 レデレはルノーのディーラーを経営していたことからルノーとの縁も深く、作り出すクルマは当初からルノーのパーツを多用していた。A110もR8のコンポーネンツなどを利用して開発され、アルピーヌにとって3番目のプロダクションモデルとして1963年にデビュー。1977年まで進化を続けながら生産されるほど愛された、歴史的な名車である。

 A110は、とても小さく軽いスポーツカーだった。バックボーンフレーム+FRPボディの車体は、わかりやすくいうなら現在の軽自動車規格より45cmほど長く4cmほど幅広い程度に過ぎない大きさ。車重は搭載エンジンなどによって異なるが、ほとんどのモデルが700kg台、もっとも重いモデルでも800kg台半ばほどである。その小ささと軽さ、そしてエンジンを車体の後端にマウントしたRRレイアウトのおかげで、A110は素晴らしく鋭敏でトラクション性能に優れ、ワインディングロードなどを走らせたら抜群に楽しく速いスポーツカーに仕上がっていた。

 その強みを生かして、A110はラリーの分野でも大きな活躍を収めた。1960年代の半ば過ぎから1970年代の頭ぐらいのヨーロッパで猛威を奮い、1973年からスタートした世界ラリー選手権の初代王者にも輝いている。1977年に生産が終了する頃には競技車両としては古さが目立つようにはなっていたが、その抜群にコントローラブルな性格はプライベーターにとっても大きな武器となり、長く第一線で活躍し続けた。現在でも初代A110のファンはフランスだけじゃなく世界的に多く、市場に出てくる数も少なければ相場も高いという状況が続いている。

 ちなみにアルピーヌは1973年にルノーの傘下に収まり、その後もスポーツカー/GTカー/コンペティションカーを生み出してきたが、先述のとおり一度は歴史の歯車を停めてしまう。以来、何度もブランドとしての復活が噂されたが、2012年秋、ついに復活が正式にアナウンスされた、というわけだ。

 新しいA110は、新たにルノー・グループの中の1社として立ち上がった新生アルピーヌによる第1作目のプロダクションモデルとなる。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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