石油精製を考えればガソリンや軽油はなくならない
欧州に端を発した「EVシフト」の波が収まる様子はない。中国で施行されるNEV(新エネルギー車)法の影響もあり、いまやグローバルに自動車は電動化へと進んでいる。もちろん、初期段階ではプラグインハイブリッドやマイルドハイブリッドまでを含めた電動化というロードマップのため、すぐさま内燃機関がなくなってしまうというわけではないが、着々とゼロ・エミッションビークル(排出ガスのないクルマ)の時代へと向かっている。
先日、トヨタが2025年までにはエンジンだけの車種をゼロにすると宣言したことも内燃機関の終焉を告げるメッセージであると市場は受け取ったようだ。もっとも、トヨタはすべての車種において電動グレードを設定すると宣言しただけで、エンジン搭載グレードをゼロにするとは言っていないので、まだまだエンジンがなくなるというわけではない。
とはいえ、トヨタは販売台数の1割前後をEVやFCVといったゼロ・エミッションビークルにすると発表している。確実に脱エンジンの流れにあるといえるだろう。では内燃機関の中でもクリーンで、乗用車では多く使われているガソリンエンジンにはメリットはないのか? また、生き残ることはできないのだろうか?
まず、自動車はEVにシフトできても、航空機や船舶を電動とするのは難しく、エネルギー密度に優れる液体燃料はまだまだ求められるだろう。そして、液体燃料は原油(石油)の精製によって作られるのも、しばらくは変わらないはずだ。
ご存じのように、原油を蒸留して精製すると、石油ガス留分・ガソリンナフサ留分・灯油留分・軽油留分・残油(重油とアスファルト)などの成分に分けられる。つまり航空機が使う灯油留分、船舶や工場で使われる重油のほかに、一定のガソリンや軽油は生まれてしまう。つまりガソリンを使わない手はない。
そして、ガソリンをエネルギー源として使えるのは小型の機械と乗用車のエンジンくらいしかなかったりする。つまりガソリンエンジンをなくしてしまうというのは悪手であり、石油精製によって液体燃料が作られる限りは、まず消えることはない。
ただし、石油精製や供給インフラといった設備の状況を考えると、ガソリンエンジンの未来が明るいとはいえない。実際、日本において製油所やガソリンスタンドは減っており、燃料インフラは縮小傾向にある。近い将来、エリアによっては利用できるガソリンスタンドがなくなったという理由から、内燃機関を選ぶことが実質的に難しいという事態になることも考えられる。
つまり、インフラ的にはガソリン車に乗っていられるのは人口の多い都市部だけという状況になるかもしれない。しかし、都市部ほど大気汚染防止のためにゼロ・エミッションを求める声は大きくなるだろう。そうそうにいガソリンエンジンがなくなるとは思えないが、将来的に増えていくとも考えにくい。