アイサイトの前身ADAやSIドライブなど意欲的な装備も採用
4代目レガシィといえば、排気系等が全車とも独立等長等爆化され、スロットルも全車電子制御化されたことでSUBARU車の歴史の中では極めて重要なモデルといえるが、搭載されるエンジンの個性がより際立つようになったことも大きな特徴だ。エンジンの搭載位置は前端で22mm、フロントデファレンシャルの位置で10mm下げ、持ち前の低重心をさらに活かしている。
まず、ターボは2/3代目レガシィで採用された2ステージツインターボから、ツインスクロール・シングルチタンターボに変更。チタンアルミタービン化によりターボシステムだけで15kg、エンジン全体で23kg軽量化している。シリンダーヘッドは駄肉除去と薄肉化、シリンダーブロックは薄肉鋳肌ライナー(鋳鉄製)の採用、ピストンも冠面裏の薄肉化がはかられたなど、EJ20-Rは内部がかなり削ぎ落とされて軽くなった。
軽量化のみならず、ライナーとシリンダーブロックの密着性も向上。ライナーの真円度も高まり、ピストンの振動が大幅に減少した。さらに、クランクジャーナルのハウジング部には鉄系の高強度合金を鋳込み、ハウジング部の熱膨張によりクリアランスの変化を抑える工夫も施している。そんな改良もあってか、この世代のEJ20はいずれも軽く回るようになった印象が強い。
さらに、3代目レガシィではDOHCのNAの吸気側のみ採用していた可変バルブタイミング機構のAVCSも採用を拡大し、ターボでは吸排気の両側に採用。これにより実用域のトルクが増し、EJ20ターボは劇的に扱いやすくなった。
また、4代目レガシィはDOHC版のNAのEJ20が大激変したことでもおおいに注目された。従来の2リッターNAエンジンは中低速トルク重視の実用車向けユニットだったが、中低速トルクを維持したまま大幅な高回転化と高出力化に成功。新形状のインテークマニホールドや、吸気バルブにAVCSを採用するなどしてMT向けは7100回転で190馬力を発生し、NAスポーツユニットとして生まれ変わっている。
等長等爆化による改良効果がもっとも大きかったのはNAのEJ20で、軽量ボディも相まって、待望のNAスポーツグレード2.0Rが誕生。4代目レガシィは歴代SUBARU車で唯一6気筒エンジンをMTで操れたことも合わせて、「NAでも官能的なスポーツ性を愉しめるレガシィ」としても称えられている。
全車等長等爆化されたことで排気干渉が低減し、全エンジンとも中低速トルクが向上。各気筒からの燃焼圧力波が均等に干渉することになり、濁り感のない排気音となった。音量が下がったことで騒音面でも劇的な改善が果たされたが、もちろんただ静かにしただけではなく、「新しいボクサーサウンド」作りにもさまざまな取り組みが見られる。
不等長時代の音を懐かしむ声もいまだ多いが、4代目レガシィでは水平対向エンジン本来の特徴である、こもり音につながる低次基本次数が小さいこと、そして大容量の吸気キャンバー設置された独自のレイアウトを活かした軽快でリニアなサウンドを目指した。とくに強く意識したのは、車内のドライバーに聴かせる音作りである。
まずは3代目レガシィまでのモデルでの課題であった、サスペンションクロスメンバーの共振は車体の高剛性化によって劇的に解消。エンジンの振動入力点から車内音までの伝達経路の問題点を解消できた。吸気系による音質創成では、とくにNAエンジンで大きな成果をあげている。
スロットルボディがエンジン房内のほぼ中央にあり、しかも車室内向きに設置されているという、縦置き水平対向エンジンならではのレイアウトを活かし、吸気チャンバーやエアクリーナーをスピーカーとして利用。チャンバー内部のリブの削除や高さの変更、およびチャンバー面の曲率や肉厚変更により狙いの周波数域に合わせるなどして、音質を調律している。
走り出しの音をスッキリさせるべく、6.8リットルの大型サブマフラーと700mmロングテールマフラーを採用し、100Hz以下の低周波排気音を低減。さらに楽器のようにそれぞれの排気管を共鳴させることで中周波排気音を強調。マフラー流入口の多孔分散器と多孔パテーションの採用により、排気の流れの乱れを抑制した。音質を悪化させる気流音については、排気の流れを微細な流れに分散しながら減速させることによって低減している。
また、クランク系の打撃音やロードノイズなど、余計なノイズを徹底的に低減させたことでもクリアな音質を目指した。前述した「吸音インパネ」という発想も各種ノイズの低減に大きく寄与。4代目レガシィが出た当初は、従来型ユーザーから「静かになりすぎた」という不満の声も挙がったが、そう感じるほど雑音の類が消え失せている。
SUBARU初の5速ATが搭載されたことも忘れがたい4代目レガシィのトピックだ。それまでの4速ATは小型軽量で耐久性にも優れた傑作ミッションだったが、上質感と燃費性能を追求するべく5速ATをJATCO社の協力を受けて新開発。
それまでの概念を捨てたとさえ断言できたほど、当時としては世界トップレベルの軽量化を実現している。開発の初期段階からCAE解析を駆使し、業界トップレベルの肉薄ケースを採用。ギヤと軸系パーツ以外のほとんどにアルミ材を多用し、あらゆるパーツを小型軽量化した。
さらに変速性能を抜本的に改善するべく、油圧制御は各クラッチごとにクラッチ油圧を直接制御可能なダイレクトクラッチ圧制御方式を採用。様々な入力トルクの変化に瞬時に高精度で対応可能となった。トルクコンバーターのロックアップクラッチ機構は湿式単板から湿式多板化して油圧制御回路を2ウェイから3ウェイに変更したことでも制御の緻密化をはかっている。
なお、5速AT採用とエンジン出力向上に伴い、VTD-AWDも全面新設計。高張力鋼板や花形脚形状化で強度をアップし、基本となる前後駆動配分は45.7対54.3として安定性を回頭性を両立。トルク感応制御としたことで、天候や路面状況の変化により対応しやすくなっている。
4代目レガシィは、こうした様々な技術的な革新のほか、CNG(圧縮天然ガス)車やSTIのコンプリートカーが4モデルも設定された(「tuned by sti」が3モデルと「S402」)こと、そして欧州市場ではディーゼルターボ仕様も発売されたことでも話題となった。
さらには最上級の6気筒モデルではアイサイトの前身システムであるADAが選べたり、後期型ではアイサイトのVer.1やSIドライブが追加設定されたなど、歴代モデルの中でもっとも多くの先進技術が投入されたモデルでもあり、猛烈に内容が濃いレガシィといえる。