突き詰めたエンジンだけではニュル最速は不可能だった
技術陣が「FFの限界に挑んだ」と言い切る今回のタイプR。そのコアとなるのはもちろんエンジンだ。310馬力の先代に対して、苦労を重ねて絞り出すように320馬力を達成した。K20C型という型式からもわかるように、S2000に搭載されていたF20C型にルーツを持ち、スクエアストロークなのが特徴となる。
さらにVTECターボにも注目だ。可変バルブタイミングであるVTCも組み合わせることで、全域で燃費も含めたポテンシャルが向上している。また電動ウェイストゲートをタービンに装着して低速からの過給なども可能にするなど、独自技術が数多く投入されている。
FF、しかもリヤまわりの剛性確保にハンディがあるとされるハッチバックで、320馬力ものハイパワーを受け止めるのは至難と言っていい。エンジンばかりに目が行くかもしれない。だがじつはトランスミッション/ボディ/サスペンション、さらにはブレーキまでも同時にポテンシャルアップを図らないと、ニュル最速はもちろんのこと、スポーツ走行すら安心して楽しめない。
なかでもサスペンションは重要なポイントだ。ガチガチではなく、コンフォートモードが新たに用意されたこともあるが、実際に乗ってみると、すべてのモードでじつにしなやか。柔らかいというよりも、腰があり、懐の深い味付けとなっている。
その実現のためにさまざまな技術が投入されているが、まず注目なのがソレノイド付きのショックアブソーバーだ。これは先代から採用されているが、新型では制御できる可変幅を拡大しつつも、余分なストロークを低減したりもしている。
フロントのストラットでは軸と転舵軸を別にするデュアルアクシスをさらに進化させつつ、ナックルやアームの軽量化や高剛性化、低フリクション化も実施。リヤは新たにマルチリンク化し、横力に対する剛性確保にも力を入れている。
ボディについてはハッチバックをベースにしながらも、接着剤の使用拡大やフードのアルミ化などでねじり剛性アップと軽量化を実現しているのは見事と言うほかない。
そのほか、マニュアルトランスミッションも新開発と言っていいほどの自信作。アクセルを煽らなくても自動で回転を合わせてくれるレブマッチシステムで、誰でも素速いシフト操作が可能になったのもトピックだ。まさにタイプRのためだけの全方位的な技術投入やチューニングである。