ボンネットのダクトも機能優先で空けられた
ドイツ・ニュルブルクリンクサーキットでのFF最速タイムを叩きだす。そんな目標を掲げた新型シビックタイプRのデザインは、外観のカッコよさのみならず、速さに貢献する機能美も求められた。エクステリアデザイン担当の蔦森大介さんはデザイン開発を次のように振り返る。
「FF最速タイムを出すという明確な目標の前では、デザインをどうこうしたいというデザイナーのエゴは通用しません。風洞施設に通って、トライ&エラーを繰り返すというデザイン開発でした。とりわけ重要なのはダウンフォース。このクルマはCd値よりもCL値、つまり空力よりもダウンフォースを重視しているんです。それを強烈に発生させるための形状や角度のデザインは、何度も何度もやり直しました」
「また、熱対策にも苦労しました。たとえばフードの真ん中に設けたインテーク。これ、じつは開発のけっこうあとの段階で追加することになったんです。テストをしているうちに熱が想像以上に上がり過ぎることがわかり、設計サイドから穴を開けてくれと。しかも空気が上手く流れるように、塵取り状の形状にデザインしたり。すべてがタイムを叩きだすための機能美なんです」
機能美という考え方はインテリアでも貫かれているが、新型では、それ以上の新しい価値も追及したという。担当した田中幸一さんにお話をうかがった。
「タイプRのデザインは、以前のモデルでも機能美であることが求められていたと思います。ただし今回は、サーキットから街乗りまでの全域をカバーするという、これまでのタイプRとは違う特徴があります。機能美に加えて、世界観や物語性を入れることも考えました。なかでもドライビングモードの操作パネルや、メーターデザインについては、とくに力を入れました」
「3モードのスイッチは、当初のデザイン案では単なる押しボタンだったんです。ですが、乗り心地から走行性能まで、かなり劇的に変わるのを体感し、もっと違う形が必要だろうと。ほかにも断面形状や、グローブをはめた手でも押しやすいかなど、非常に細かい部分にまでこだわって作り込んであります」
開発責任者と一緒になって、タイプRの各ドライビングモードのひとつひとつのシーンを想像しながら、ユーザーの気持ちになってそれぞれの表示形態を決めた田中さん。レブインジケーターの光り方の質感に至るまで、設計とともに徹底的にこだわりを貫いたという。
こうして誕生した新型タイプRのデザインについて、パッケージ担当の戸川昌幸さんが、自信のほどを語ってくれた。
「従来のタイプRよりも一層低重心なトライビングポジションとし、運動性能を極限まで高めながら快適性もプラスしています。新世代のタイプRと呼ぶに相応しいパッケージとしました」
歴代タイプRの枠を超えて開発された新型シビックタイプR。高いハードルを乗り越えたデザインは、ホンダの新しい時代を予感させる仕上がりと言えそうだ。