なぜ日本車にだけCVTが多いのか?

CVTは加減速の多い日本の道路環境で優位性の出るシステム

 理想的なトランスミッションは存在しません。なぜなら、本質的にはトランスミッションが存在しないことがパワートレインにとっては究極だからです。トランスミッションは、変速するために大量のギヤを使うので伝達ロスが発生するだけでなく、クラッチ機構によってロスも出て、しかもギヤの固まりなので重い。CVT

 トランスミッションが無くなれば、クルマはいろいろとラクになることでしょう。電気自動車には基本的にトランスミッションは不要ですが、しかし不自由なトルク特性を持つエンジンという内燃機関を使う以上はトランスミッションが不可欠です。

 では最善なトランスミッションとはどういうものでしょうか? それは無限大の変速比が出せる構造のもので、エンジンがどんなに高回転であったとしても伝達する回転数はゼロ。それによってクラッチ機構が不要になります。しかも無限大から変速していくと、その瞬間に出力トルクは最大になります。

 この理論はすでに整っていて、トロイダルCVTという名称になります。以前、日産がスカイラインなどに採用していたのはハーフトロイダルCVTで原理的には同じですが、無限大の変速比は出せません。

 というように、理想的なトランスミッションはCVTなのです。しかしヨーロッパで生れたというのに、CVTが発達したのは日本であり、アメリカである、ということになりました。そのひとつの理由は伝達効率です。変速比が1:1のような状態では90%以上の伝達効率を持ちますが、最大減速比となる場面では60%近くにまで低下してしまいます。これは片方のプーリーが最小になってしまうためで、CVTのスチールベルトが小さく回ることで滑りやすくフクリクションも多くなってしまうのです。

 その構造から、現在メジャーなプーリーとスチールベルトによるCVTは低速域と高速域での伝達効率が低くく、高速巡航時の燃費が悪いということになります。

 しかし日本は制御、とくに最適化技術について、世界でもっとも進んでいます。エンジンの出力トルクが小さい時はプーリーの圧力を低くするなど、とくに低負荷でのパワーロスを少なくしています。またエンジンを高度な技術制御をしようとすると、変速が連続的でエンジンの回転数変動がないCVTは優位です。さらにいえば軽自動車のような小排気量のエンジンでは、もっともパワフルな回転域を使うことができるので、動力性能の面で優位です。

 日本の道路環境、つまり渋滞があり、アップダウンがあり、信号が多いという、つねに加減速が続くような環境では、CVTは有効性があります。

 ヨーロッパのようにフラットな道を淡々と、延々と一定速で走り抜けるようなシーンでは、トルコン式ATに優位性があります。また比較的歴史の浅いDCTは、ギヤの伝達効率だけを考えるとMT並みですが、複雑な制御にエネルギーを食われ、またトランスミッション自体のサイズも小さくありません。

 つまり日本とアメリカでCVTが主役になっているのは、道路環境の違いもあるかもしれません。またMTが多く、ATが浸透して来なかったので、ヨーロッパがCVTに向かっていない可能性もあります。おそらく、その両方が要因ではないでしょうか。

 ちなみにもっとも注目して欲しいシステムはAMT+モーター、つまりシングルクラッチ式自動MTとハイブリッドの組み合わせです。AMTの弱点だった変速や発進のスムースさやシフトアップ時のタイムラグは、モーターがすべて解決してくれます。ハイブリッドが前提となるなら、このシステムがもっともシンプルで効率が高く、軽量でコンパクトです。

 これをすでに実現しているのはスズキで、スイフトやソリオのフルハイブリッドがこのシステムになっています。現在は5速ですが、これが7速くらいになると、かなりのレベルに仕上がることでしょう。

 逆にもっとも可能性が低いのは、通常のトルコン式ATです。日本だけでなく、世界中で少数派になっていくと予想されます。


新着情報