左右の駆動力が異なることで発生するトルクステア
アクセルペダルを踏み込むと、ステアリング操作していないのに、クルマが左右どちらかに曲がろうとする現象を、トルクステアと呼びます。この現象は、エンジンの駆動力が駆動輪の左右で異なってしまうことで発生します。もっとも現れやすいのはハイパワーなFWD車ですが、そうではないクルマでも発生します。またドライバーが意識せずに不意に発生することもあり、驚いたり、慌ててしまったりする場合もあるようです。
左右の駆動輪に均等に駆動力が伝わらないということは、壊れてる? いえ、そんなことはありません。機械的にはまったく正常でも、いろいろな要素によって、左右の駆動力が均等ではない場合があるのです。エンジンを横置きにした前輪駆動(FWD)車の場合、トルクステアの発生原因となるのは左右のドライブシャフトの長さが違うことです。
これはエンジンとトランスミッションが一体となっていて、構造上デファレンシャルギヤの位置が大きく片寄っているためです。左右のドライブシャフトの長さが違うということは、ジョイントの角度が左右で異なってしまうので、駆動力の伝わりが左右で差がついてしまうのです。ハイパワーなほど、その差が大きくなりやすいので、トルクステアが発生しやすくなります。
スポーティなFWD車では、フロントデフにトルセンLSDやヘリカルLSDが標準装備されている場合があります。アクセルペダルを踏み込んで駆動力が大きくなると、LSDがデファレンシャル機構をキャンセルして左右の駆動力を均等にします。結果としてステアリングを切っている場合、コーナーのアウト側のタイヤにも十分な駆動力が配分され、イン側へ向かう力を発生させます。これは左右のタイヤにかかっている荷重が違うことも、その一因です。