よりモーターの効率を高めるための多段変速機構の役割はある
自動車メーカーがさまざまなサプライヤー(部品メーカー)からパーツを仕入れて、一台のクルマとして仕上げているのは、ご存じの通り。タイヤまで含めると、すべてのパーツを内製している自動車メーカーというのは存在しないといえる。
その中でもトランスミッションというのは、いくつかの大手サプライヤーが自動車メーカーに部品を納めるというスタイルを取っている印象が強い。日本国内でいえば、トランスミッションのサプライヤー大手であるアイシンとジヤトコが、トヨタや日産をはじめとした多くのメーカーに納めている。もちろん、トランスミッションの内製にこだわっているホンダやマツダのようなメーカーもあるが……。
それくらいトランスミッションのサプライヤーというのは現代のクルマにおいて欠かせない存在だが、その未来は明るいとはいえない。というのも、「EVシフト」と表現されるクルマの電動化においてトランスミッションは不要という見方があるからだ。
実際、日産リーフのような電気自動車は多段変速機という意味でのトランスミッションは持っていない。英語表記のスペックシートにはトランスミッションの項目はあるが、そこには「8.193」という最終減速比が記されているのみだ。
電気モーターは回り始めから最大トルクを発生する、というメリットはよく目にするだろうが、さらに高回転までスムースに回るという特性もある。実際、リーフのモーターは3283~9795rpmの範囲で最高出力を発生しているほどだ。内燃機関では考えられないほど、パワーバンドは広い。
ごく一部の最高速無制限のエリアを除けば、グローバルに考えても最高速は140km/hくらいまで対応しておけば問題ない。であれば、多段変速機を持たずとも対応できるのが電気モーターのポテンシャルなのである。
すなわち、純・電気自動車への「EVシフト」が起きるとしたらトランスミッションは不要となりかねない。当然、トランスミッションを主要事業とするサプライヤーの未来は明るいとはいえない。なにしろ、ハイブリッドであってもモーターがタイヤを駆動するタイプであれば多段変速機構は持っていないものが多いし、後退についてもモーターを逆回転させて対応するのでリバースギヤは不要となっているくらいだからだ。
とはいえ、トランスミッション・メーカーも黙って見ているわけではない。今回の東京モーターショーでは、前述した日本を代表する2つのサプライヤーが出展、電動化時代におけるトランスミッションの役割をアピールしていた。そして、そのアプローチは似通っている。
まず、トヨタ系の2モーターハイブリッド技術も持つアイシンは、多段変速機構を持たない2モーターではなく、8速ATとワンモーターを組み合わせたハイブリッドシステムを参考出品。EVモードを持つハイブリッドであっても多段トランスミッションが役立つことを示していた。
一方、日産や三菱、スズキにCVTを納めるジヤトコは「モーターの性能を引き出すための多段変速装置」をプレゼンテーションしていた。たしかに0~140km/hをカバーする大きなモーターより、もっと小さなモーターに多段変速装置を加えることで、発進トルクをカバーし、最高速での負担を軽減することができれば、モーターのコストを下げることにつながる。
実際、コンセプトカーでは2~3段の変速装置を組み合わせたEVというのは存在している。とくに最高速のパフォーマンスを求められるプレミアムカーにおいては電動化による数値のダウンを嫌うだろうから、多段変速装置を用いることで低速の発進トルクから、余裕の最高速までをカバーしようとする可能性はある。
しかしながら、せいぜい80km/hを上限とするようなシティコミューターにおいて変速装置は不要だろうし、インホイールモーターでは多段変速装置を一体化するという発想になるとは考えづらい。「EVシフト」によってトランスミッションが消えるとはいえないが、その必要性が薄れていくことは間違いない。