滑らかな駆動制御や変速が卓越したハンドリングを生む
累計販売台数150万台を超え、BMWの三分の一を超える販売比率を占めながら今もなお好調に記録を伸ばしているXシリーズ。その中心に位置して、メーカー自らがオールラウンダーと呼ぶモデル「X3」が3代目へとフルモデルチェンジ。つい先日、日本でも発表されだが、試乗車はまだない。そこでひと足早くポルトガルにて触れてきた内容をリポートしよう。
まず核心から。X3のようなラフロードも走れるモデルは、重心が高くボディの環状骨格形状も大きいので、どうやっても乗り味の質でセダンには敵わないとされてきた。しかし“ポルトガルで触れた”X3に関しては、その定説が通用しない。なぜなら、乗り味に大きく影響するシャシーが、5シリーズや7シリーズと完全に共通であり、それを存分に活かしきっていたから。若干含みのある表現をしたが、それは最後に話すとして……。
まず、BMWの最新シャシー構成内容はシンプル。FR系とFF系の2系統のみ。その新世代FR系シャシーはモデルチェンジに応じて順次導入されており、まだ現行の7シリーズと5シリーズ、そして今回のX3と6シリーズGTにしか使われていない。もちろん同じと言っても、その上屋であるボディは異なるし、ホイルベースの長さなどは専用に調整されて使われている。言うなればシャシーの基本骨格の構成が同じと捉えてもらうと良い。
それによりX3の乗り味が、7シリーズや5シリーズにどことなく似ているのだろう。具体的には、ハンドル操作に対するダイレクト感や剛性感があるのに、適度なしなやかさや“いなし効果”を同時に備え、上質な高級車的しっとり感が備わっていた。
さらに注目すべきは、電子系のプラットフォームが最新型になったこと。前述した4つのタイヤを的確に路面にしなやかに接地させるシャシーと相まって、ラフロードをより力強く快適かつ楽に走れるようになった。とくにトラクションコントロールなどの介入がとても自然で滑らかになったのが好印象。
下まわりを若干擦るような荒れた山岳路を、気持ちよく走れる。もちろん電子制御頼みで走るのではない。歴代X3が得意としていた各操作に対する素直な反応と、路面環境や走行状況がハンドルの重さや振動の変化から掴み取りやすいといったクルマとドライバーとの距離感が近いことも見逃すことはできない。これがあるから精神的に安心でき、結果気持ちよく走れるわけだ。
結果として滑りやすい路面でも“これだけ”滑らかに駆動系の制御がなされると、クルマがイメージどおり的確に前に出るだけでなく、ハンドリングがとても安定する。イメージとしては、荒い駆動系の制御だとそのたびに姿勢変化が起き、前後の荷重が変化して、結果ハンドリング面への影響がでるが、それがないと捉えてもらうとわかりやすいだろう。
オンロードだと、さらにさまざまな要素に気がつく。まず今回のプレゼンテーションでも、SAVのX3であっても前後重量バランス50:50を達成していることを強くアピールしていた。それにより基本となる車両姿勢変化が抑えられ、ダイナミクス特性や操作性が上がるし、快適性まで得られることを開発陣は改めて強調。振り返ると、この姿勢変化こそ、X3の開発陣が最大の天敵と考えて抑えようとした要素なのではと思った。
と言うのも、先ほど述べたラフロードでの電子制御の入り方も然り、走り出して即座に感じる8速ATの変速ショックフリーの滑らかさなども姿勢変化の抑制に寄与する。さらに注目はxDriveの賢さ。リヤ駆動を主体とする4輪駆動だが、以前よりもフロント駆動を積極的に使い出した印象があり、加速時の姿勢変化が抑えられたと直感する。
それは停止状態からの走り出しでも感じられる。以前よりも積極的にフロント駆動を使っている印象で、それによりリヤ駆動でもたらされるリヤの沈み込み量と、フロント駆動で生じるフロントのリフト量が今まで以上にコントロールされ、姿勢変化が少なくラクに走り出せる感覚もある。
また、少しアクセルを踏み込みながらのスラローム動作をコンフォートモードとスポーツモードで比較すると、運動性能を求めるスポーツモードのほうが、フロントタイヤがグイグイと引っ張る力が増して車両が後ろに傾く感覚が抑えられる。このような制御感は先代X3では感じなかった。
背景にはクルマのセンシング能力が高まり、現状を正確に読み取って対応する電子制御サスペンションの緻密な制御もあるのだろうし、これも電子プラットフォーム一新のなせる技。何にせよ姿勢変化が少ないのが今回のX3だと強く感じる。だからこそ重心が高いはずX3のようなボディのモデルなのに、5シリーズや7シリーズと同質の乗り味を感じられたのだろう。
ほかにもハイウェイなどを半自動運転で走ってくれる能力などにも触れたいところだが、半自動運転の完成度は滑らかさを含めて7シリーズや5シリーズのレベルには達していなかった。だが日本の道路環境で試さないと意味がないのでここで掘り下げるのは控えたい。
最後に、エンジンに何も触れていないが、オンロードで試乗したのが日本に入らないとされるMパフォーマンスモデルのX3 M40iであり、日本に入る直列4気筒エンジンには触れていないのでわからないと答えておこう。
ここで言いたいのは、なぜ直列4気筒を国際試乗会に用意してくれないの? ではない。このMパフォーマンスモデル、日本に入れるべきだということ。
これは他シリーズにも言えることだが、Mパフォーマンスの日本環境への親和性はとても高い。あまりに良すぎて、より利益率の高いMモデルが売れなくなるなどの懸念があるのかもしれないが、先ほど述べたX3の姿勢変化が抑えられた乗り味はどのグレードでも恩恵に授かれるものではあるが、M40iこそもっとも活かしているのではと感じてしまった。
日本仕様のX3に触れたら、この直列4気筒ならMパフォーマンスモデルはいらないと判断できることを期待しつつ、日本での試乗機会を待つことにしよう。