スーパーカーから新幹線まで「止める」を支える「曙ブレーキ」【東京モーターショー2017】
摩擦を使わない環境配慮型の次世代ブレーキに注目
2017年10月25日(一般公開日は10月28日から)より東京ビッグサイト(東京都江東区)で開催されている東京モーターショー2017に出展している「曙ブレーキ工業」は、フォーミュラ1(F1)から新幹線やエレベーターまで、さまざまな分野の制動装置を製造するブレーキメーカー。
摩擦材を使用しない環境に配慮した次世代ブレーキシステムのほか、マクラーレンのロードモデルに採用されているハイパフォーマンスモデル用高性能ブレーキキャリパー、新幹線用ブレーキパッドなど、じっくりと見れば見るほど楽しめるブース展示になっている。
2007年よりF1マクラーレンチームのオフィシャルサプライヤーとして、世界最高峰のモータースポーツ「F1」に参戦する曙ブレーキ工業は、モータリゼーション黎明期の1929年に、日本初のブレーキライニング(摩擦材)メーカーとして創業。1958年には国鉄新特急「こだま」のディスクブレーキライニングに採用されるなど、自動車だけでなく幅広い分野の制動装置を手がけている。
純正ブレーキメーカーとして新車組み付け用ブレーキパッドのシェアは、日本市場では46%、海外でも21%。全世界で5台に1台のクルマが曙ブレーキ工業の製品を装着していることになる。
近年における同社のトピックとすれば、世界で375台しか生産されなかった9937万円、916馬力のハイブリッドスポーツカー「マクラーレンP1」のブレーキを手がけたことだろう。意外にも市販車の場合、採用するブレーキは、キャリパーやパッドのメーカーが前後で異なることも多いという。
それが前後ブレーキはもちろん、ローターからキャリパー、パッドまで曙ブレーキ工業で統一されることは信頼性の高さの証だ。
さらに、マクラーレンP1に採用されたカーボン製ローター+モノブロックアルミ削り出し対向6ポットブレーキキャリパーは、市販ロードカー用高性能ブレーキの開発と量産化で2015年度「日本機械学会賞」を受賞した。
ハイパフォーマンス大型SUV用対向10ポットブレーキキャリパーは、すでに量産車に採用されており、このブレーキキャリパーをさらに軽量化したプロトタイプを展示。
さらにハイパフォーマンス車やSUVに採用される4ポットや6ポットのブレーキキャリパーも展示されている。装着車両は明かされていないが、欧州スポーツモデルとのこと。
超高速域からのブレーキングでは、キャリパーに歪みが発生するため、ローターにパッドを正確に当てることが難しくなるそうだ。当然のことながら、そのような状況では制動力を十分に発揮することはできない。そこでキャリパー重量の増加は抑えつつ、強度を高めるため、V字型の補強を施す技術が生まれたそうだ。
曙ブレーキ工業は、このようにハイパフォーマンスカーのブレーキを手がけることは、技術力の積み重ねることができるので非常に重要なことだという。
その一方で次世代ブレーキシステムの開発にも取り組んでいる。今回の東京モーターショー2017における同社の展示で注目なのが「MR流体ブレーキ」。これは摩擦を使わずに制動力を発揮させ、自動車の電動化と自動運転に対応した応答性・制御性の良さを特徴とした電動ブレーキシステムだ。
従来の摩擦材(ブレーキパッド)を使用しないためブレーキング時の摩耗粉が発生せず、ブレーキフルードの交換も不要なので、環境への負荷を大幅に軽減することができるわけだ。
ちなみにMRとは、Magnet(磁気)とRhelogical(レオロジー・流れる特性)という意味で、電気により磁力を加えると液体中に分散された数ミクロンの強磁性粒子(鉄粉)が半固形化する特性を使用している。
デモ機では、MR流体が入った注射器をパイプでつないである。注射器のピストンはスムースに動くのだが、パイプに磁石を近づけるとMR流体が固くなりピストンはほとんど動かせなくなる。
このような特性を利用して、車両側に固定された円盤とハブベアリングと一緒に回転する円盤が交互に配置されている間にMR流体を充填し、これに電気を使った磁気を発生させることで半固形化する。その抵抗によって制動力を発生させるという。
電気の量によって磁気が変化するので、MR流体の固形状態も緩くなったり堅くなったりする。その特性を利用して、制動力を細かくコントロールできるそうだ。その制御は従来の油圧式ブレーキより緻密に行うことができ、とくにABSの動作(ブレーキを緩める)間隔も格段に短縮することができるそうだ。
このような細かい制御が可能となることによって、滑りやすい路面での急ブレーキ時の安定性が格段に高まるという。
このほか高性能バイオマス(植物資源)ポリマーを活用したブレーキパッド用結合材や、2025年にアメリカ・カリフォルニア州で施行予定の銅含有率0.5%以上の摩擦材の新車組み付け禁止への対応など、将来に向けたさまざな開発が行われているそうだ。
すでに同社の補修用ブレーキパッドの多くは、銅を使用していないということだ。
そしてモーターショーの展示としては異例とも感じられるのが新幹線(E5系)のブレーキパッドだ。これは高速化が進む東北新幹線に対応したもので、JRの制動性能規定を満たすという。じつは、超高速域からブレーキングするとローターが熱で変形して、ブレーキパッドの摩擦材が十分に接しなくなるため、制動性能が低下してしまうそうだ。そこで摩擦材を可動式にすることでローターが変形しても追従できるようにして制動力を高めたということである。
このように高嶺の花のスポーツカーから身近な新幹線までのブレーキシステムを開発する曙ブレーキ工業は、世界の交通の安全を支える企業と言えるだろう。
曙ブレーキ工業
http://www.akebono-brake.com/