業界のイメージ向上の施策のなかで広まった
東京や大阪、名古屋などの大都市をはじめ、ほとんどの地域でタクシーに乗れば、事業者ごとに運転手は制服を着用している。いつでも洗濯されてパリっとした布のカバーでシートが覆われ、車内清掃も行き届き、運転手がネクタイをしめておそろいの制服を着ている日本のタクシーは、世界的にも、自動ドアがついているのも含めて珍しい存在となっている。仮に制服がなくとも、それなりに清楚で統一のとれた服装で運転手が乗務する事業者も目立つ。
これはあくまでも筆者の私見となるが、運転手の雇用形態などとも関係があるのかもしれない。日本では個人タクシーを除けば、運転手は事業者の正社員扱いで健康保険や年金の一部負担を事業者で行ってもらったりしている(定時制という非正規雇用制度もある)。
日本ではいまどき珍しく、正社員なので基本給はつくものの、歩合の割合がかなり大きいのだが、“法人タクシー”ということで、サービスレベルの均一性を保つ意味もあり、また客受けもよく大口のチケット契約なども得やすくなるので、多くの事業者では制服を無料貸与したり、レンタルしているようである。
地方などにある零細なタクシー事業者では、保有台数が少ないこともあり制服をとくに定めないところもあるようだが、ある程度のガイドラインを設定しているようである。
ヨーロッパでは、車両を事業者に持ち込んで(好きな車両をタクシー車両として選べる)営業を行うので、そこには雇用関係というよりは、運転手は“請負業者”的立場となるのか、運転手は制服を着用していない。
アメリカもヨーロッパと同じような運転手に対する待遇となるようなので、制服というものはとくに決められていない(もともと欧米人が警察官などでもないかぎり、積極的に制服を着用することはないと思うが……)。
一方で筆者の経験では、中国やインドネシア最大手のタクシー事業者では、運転手は制服を着用している。雇用関係がどうなっているか調べきれていないが、中国やASEAN諸国でのサービス業のオペレーションは日本のものが参考にされていると聞くので、日本のタクシー運転手の制服着用を採り入れたのかもしれない。バンコクのタクシーは車両持ちこみ制なのか、タクシーをエアロチューンする運転手もおり、当然ながら制服というものはとくに決まっていないように見えた。
ただ日本もその昔は、タクシー運転手が制服などを着用することはなく、当時はタクシー業界については残念ながら世間的にはあまり良いイメージは持たれていなかった。そのため業界のイメージ向上を進めるなかで、制服着用というものが広まっていったようだ。
なお、日本ではワイシャツの上にチョッキを着用し、さらに上着を着用する制服も多いが、夏場だからといって上着を脱ぐことは許されず、上着着用で業務を行うきまりの事業者が多いとも聞いている。
薄着で夏場にずっと乗務していると、どうしてもエアコンの温度設定を抑えめにしてしまうので、灼熱の車外から乗り込む乗客の感覚に合わせる意味でも上着の着用を行っているとも聞いたことがある。
靴についても黒色で革靴もしくはそれに近いものでスニーカー類や、穴のあいたサンダルのような靴などはダメなどと決まっているケースも多いようだ。