120km/hへの布石として大切な第一歩
昨年3月、警察庁が高速道路の速度規制を100km/hから120km/hへ引き上げる方針を発表してから1年半。いよいよ、今年の11月1日から試験的に新東名高速の一部区間で、速度規制が現行の100㎞/hから110km/hに引き上げられることが決定した。
試行区間は新静岡インターチェンジ(IC)~森掛川ICの50.5km。たった10km/hの違いだが、それでも高速道路の最高速度が100km/h超に引き上げられるのは、1963年に日本で最初の名神高速が開通して以来初めてのことで、非常に画期的な出来事だ。
じつに半世紀以上、「神聖にして侵すべからず」という扱いだった制限速度が見直され、それが10km/hでも加増されるというのは、ビッグニュースといっていいだろう。理由としては、道路整備が進み、構造上120km/h以上の走行を想定している「高規格高速道路」が増えてきたこと。クルマの安全基準、動力性能ともに格段に向上し、タイヤの性能も進歩していること。燃費を含む環境性能も非常に優れたクルマが多いことなどが挙げられるが、一番は、実勢速度(実際にクルマが高速道路を走っている速度)と規制速度の隔たりが大きいため、それを解消し、取り締まりへの理解を広げることが狙いとされる。
試行期間は、季節による影響も見るため、最短でも1年以上。今後は、新東名での試行区間の拡大や、東北自動車道の花巻南IC~盛岡南IC(30.6km)での区間でも試行される予定。それらの施行の結果から、事故の発生状況などを検証した上で、段階的に最高速度を120km/hまで引き上げるかどうかを検討する。
これまで長年にわたり、不当に低い制限速度を強いられてきた日本の高速道路が、ようやく改善されるかどうかの大事な試行なので、この試行区間ではとくに事故ゼロを目指し、高規格道路の設計速度の範囲では、制限速度を引き上げても、安全性は変わらないということを証明していくことが非常に重要になってくる。
制限速度が高くなることで、普通車と大型車等の速度差が広がり、事故のリスクが増えるという懸念があるかもしれないが、今回の試行でも、大型トラックやトレーラーなどの最高速度は80km/hのまま据え置いたうえで、これらのクルマは、第1通行帯(一番左の車線)だけを通行するよう規制して、速度差の問題に対応。
また、先般、WEBCARTOPの記事でも紹介した通り、「人身事故の89%は時速40キロ以下で発生」という客観的なデータもあり、少なくとも高規格の高速道路で、制限速度が120km/hになったとしても、リスクやデメリットが増えることは考えづらい。
ぜひ、多くの人が引き上げられた制限速度のメリットを享受して、なおかつ安全面では影響がないことを証明してくれることを願ってやまない。最後にもう一つ付け加えておきたいのは、制限速度というのは、「この速度で走りなさい」という奨励速度ではないということ。
本来、制限速度というのは、「いくらなんでも、これ以上スピードを出したら危ないよ」という速度に設定すべきで、多くの人は、その制限速度以下で普通に走るというのが、本来のあり方というものだろう。日本の高速道路のように、流れに乗って走っているだけで、制限速度を超えてしまうような速度設定は、根本的に間違っている。
理想的には、前記のとおり「これ以上スピードを出すのはやめなさい」という最高速度の表示と、「この車線では、このぐらいのスピードで走るといいですよ」という、「目安速度」を二つ表示できればいいのでは……。
いずれにせよ、誰もが、より速く、より安全に、より気持ちよく、高速道路を走れるように、運転マナーも見直して、安全運転の意識を高め、クルマのメンテナンスも万全にしたうえで、54年ぶりに見直される高速道路の制限速度が、「引き上げられてよかった」といえるように、高速道路利用者も努力するよう心がけよう。