ミシュランの冬タイヤの故郷は群馬県だった
クルマ好きなら知らない人はいない、ミシュラン。言わずと知れた世界的なタイヤメーカーであり、かつてはF1にもタイヤを供給、さらに現在でも電気自動車のフォーミュラレース、フォーミュラEにおいてワンメイクのタイヤサプライヤーになっている。
日本に目を向けても、スーパーGT参戦マシンがタイヤを装着するなど、その技術力は折り紙付き、市販タイヤの性能を高く評価する人も多いのだが……一般的にはレストランを評価する「ミシュランガイド」を発行する会社、という認識をする人もいまだに多いのだとか。
一方でタイヤに目を向けると、日本はブリヂストンやヨコハマタイヤ、トーヨータイヤなど国産メーカーが多く存在することから、海外メーカーは、シェアという意味ではやや苦戦を強いられているようだ。
ミシュランをタイヤメーカーだと認識していない人はともかくとして、タイヤとしてみると巷の意見で多く聞かれるのは「海外向けのタイヤを持ち込んでも日本の環境には合わない」、「日本の雪道は独特の環境だから欧州向けのスタッドレスはグリップが低い」、などというもの。
タイヤというのはクルマと違い、ディーラーで試乗してから購入というわけにはいかないシロモノだ。それゆえにこうした漠然としたイメージや、まことしやかに言われる意見に左右されるのも仕方がないところだろう。
じつは今回取材したのは、ミシュランの太田サイト。これは群馬県の太田市にあるタイヤの研究開発施設である。
実際国産タイヤメーカーも含め、こうした研究開発の拠点に入れる機会は稀なこと。それだけ秘密も多いということになる。我々メディアの取材スタッフも、写真はおろか録音もNGという状況で中に入れてもらうことができた。
まず取材の中で驚いたのは、世界的大企業のミシュランだが、タイヤの基礎開発から行っているのは、本国フランス、アメリカ、そして日本の太田という3カ所という事実だ。フランスのタイヤメーカーが、日本に重要拠点を置いているのである。
では実際どんなことが行われているのか。まず開発用のタイヤを一から手で作る施設を見学することができた。
ここでは材料から研究することができるため、特殊なコンパウンドの製作も可能だという。さらにインナーライナーからすべて手作業で1本のタイヤに仕上げていくことで、あらゆるタイヤが試せるとのこと。これを見ただけでもいかに太田サイトが重要な施設であるかがわかる。
さらに驚くべきは、続いて見学した室内アイス試験機だ。これは巨大な円の内側に氷面を作り上げ、その内部にタイヤを接地させて回転することで、冬タイヤの開発ができるシステムである。
室内のため、一年中冬タイヤの試験ができ、さらに氷面温度の調整も可能。想定できる走行速度には対応しており、スリップアングルを付けることもできるのだという。そして何より、この室内アイス試験器は世界中にあるミシュランの拠点のなかでも、日本の太田にしかないのである。
つまり、ミシュランの冬タイヤはすべて、日本でまずは基礎的な研究開発がなされ、世界に展開されているのだ。
当然、先日発表になったばかりのスタッドレスタイヤ、X-ICE3+もこの太田が生まれ故郷ということになる。つまり最初に書いたようなまことしやかな、「欧州メーカーのスタッドレスは日本に合わない」という噂は、ミシュランのスタッドレスには当てはまらない。
そんなミシュランだが、ミシュランタイヤ専売の販売店がないことなども、日本でブランドが浸透しない理由だという。ただし、今回の取材を通じ、さらにはさまざまな試乗機会から得たインプレッションでは、もっと多くのクルマに履き、多くの人に試してほしいタイヤだといえる。少なくとも海外ブランドというだけで避けるのはもったいない。ぜひ履き替えの際には、候補に入れて考えてみてはいかがだろうか。