【試乗】走りの楽しさと実用性とエンタメと三拍子揃ったルノー カングーS MT (2/3ページ)

背高を感じさせず意のままに走らせられる

 ドライビングポジション、運転操作は見事に自然。ペダル、本革巻きステアリング、シフトの位置が絶妙で、足を伸ばせば、手を伸ばせばそこにペダル、ステアリング、シフターがあるという感じ。

 シフトはコクッと気持ち良く決まり、1.2リッターターボエンジンは低回転域から豊かなトルクを発揮し、軽やかに加速。そして6000回転あたりまでウルトラスムースに、上質に回り、高回転まで回しても不快な振動、ノイズとは無縁。回すことをためらわせない、世界の1.2リッター級ダウンサイズ実用ユニット最高峰のエンジンと言ってしまいたい。

 無論、この6速MTとの組み合わせで、その持てる性能を発揮してくれることは間違いない。

 ちなみにエコモードを持ち合わせ、なかなかの実用燃費の持ち主なのだが、エコモードONでも動力性能にまったく不満なし。ノーマルモードからエコモードに切り替えても、パワーがガクリと落ちることはないのである。

 が、逆にエコモードからノーマルモードに戻せば、エンジントルクの盛り上がりがより豊かになることを実感できる。

 最新モデルはステアリングを切れば、じつに素直に、リニアに向きを変え、想定外にキビキビした走りを披露。実用車でも意のままに走れる(いや、パリの混雑したせめぎ合いの交通環境を知れば分かるように、意のままに走れなければならない)フレンチドライビングスタイルを体感できるようになった。

 そして乗り心地も完璧である。低中速域の市街地走行、高速域の高速走行、荒れた路面を問わず、素晴らしく上質でフラット。たとえば段差やマンホールなどの路面の突起物を、サスペンションと車体がしなやかにいなし、終始、極上の快適感をフラットライドのまま維持してくれるのだ。だから今や、全高1810mmもの車高、重心の高さでも、カーブ、山道、高速走行、高速レーンチェンジでのフラつき、不安感などないに等しい。

 熟成を重ねてきたルノーカングーだから、6速EDC、4速ATで乗ってももちろんばっちりだが、あらためてカングーの6速MTに乗ると、「やっぱこれだよね」と思わず頬が緩んでしまうのも本当だ。どこまでも、いつまでもステアリングを握り、ミッション、エンジンと対話していたいという気持ちになる。

 そうそう、最後になってしまったが、“FOCAL Music Premium”サウンドシステムはそうした極上のフレンチドライビングの世界をより豊かなものにしてくれるアイテム。最高峰のデジタル録音の和製ポップスと懐かしくも最新録音、ミックスのAORを試聴したが、2.1チャンネルサブウーハーを備えるこのシステムは、和洋楽を問わず、臨場感ある、タイトで切れ味のいいサウンドを聴かせてくれた。

 6速・100km/h走行でエンジン回転のエコゾーンを維持する、クルージング中の静粛性の高さも、“FOCAL Music Premium”サウンドシステムを一段と際立たせてくれるというわけだ。

 超実用車にして、運転好きの期待を裏切らないどころか、それ以上の運転の楽しさ、気持ち良さを味わせてくれるあたり、さすがフランス車、ルノーである。価格はなんとベース車両のZEN 6MTとまったく同じ247万円。魅力的すぎる限定車と言うしかないだろう。


青山尚暉 AOYAMA NAOKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
フォルクスワーゲン・ゴルフヴァリアント
趣味
スニーカー、バッグ、帽子の蒐集、車内の計測
好きな有名人
Yuming

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