全事故の90%以上が速度を守っているなかで発生
交通事故の原因というと、イの一番に「スピードの出し過ぎ」が頭をよぎるだろうが、本当にスピードは悪なのだろうか? 警察庁交通局のまとめた「交通事故の発生状況」という資料を見てみると、じつに興味深いデータが載っている。
「事故直前速度(※)別事故発生状況」のデータによると、人身事故の61%は時速20キロ以下で発生! 時速40キロ以下も28%で、なんと全体の89%が時速40キロ以下の低速域に集中している。反対に時速60キ超の事故は、たったの1%しかない。
※事故直前速度=専門的には危険認知速度といい、ドライバーが相手車両などの危険を認知して、ブレーキを踏んだりハンドル操作などの危険回避措置を取る直前の速度のこと。
死亡事故に限ってみると、時速20キロ以下が18%、時速40キロ以下が26%、時速60キロ以下が38%と、速度域が中速域に移行してくるが、より上の速度域を見ると、時速80キロ以下が11%、時速100キロ以下が5%、時速100キロ超となると2%にとどまっている。さらに言えば、「全事故の法令違反に占める最高速度違反の割合」というデータでは、最高速度違反による交通事故の割合は、わずか0.5%!
死亡事故に限定しても、その割合は7.6%。つまり交通事故の90%以上が法定速度・規制速度以内で発生していることを示していて、原因としては安全不確認や脇見運転のほうがはるかに多い。
身体の運動を司っているのは脳であり、脳はある程度の刺激=スピードを与えた方が、活性化する。認知症の傾向がある高齢者が運動をすることで、認知機能が改善されるというのは、多くの人が知るところで、脳は高度な運動をすればするほど、物理的に容積が大きくなり、年齢に関わらず発達することが、2004年、ドイツのレーゲンスブルク大学の研究などで確認されている。
また、脳トレーニングの世界でも、2つのこと(運動)を同時に行うと、前頭葉が活性化し集中力が増すことがわかっていて、反対に脳への刺激が乏しくなると、前頭葉は非活性化し、集中力は低下するとされている。
クルマの運転も同様で、ある程度の刺激=スピードを与えた方が、脳は活性化し集中力は高まり、反対にゆっくり走ると、感覚は鈍くなり、集中力や周囲に対する気配り、安全意識も緩慢になる……。
そう考えると、通学路や住宅地の細い道を猛スピードで走るのは論外にせよ、郊外の広い道や高速道路では、実勢速度とかけ離れた極端にセーブされた制限速度を押し付けるより、制限速度を思い切って引き上げたほうが、むしろ交通事故のリスクは減らせるのではないだろうか。
たとえばドイツみたいに、生活道路は時速30キロ、市街地は時速50キロ、郊外(一般道)は時速100キロ、高速道路は一部を除き無制限なので、イタリア、フランス、イギリスに倣って、時速130キロといった、シチュエーションによってメリハリのある制限速度のほうが望ましいはず。
とにかく、上記のようなきちんとしたデータがある以上、「スピード=諸悪の原因」と短絡的に考えるのだけは改めてもらいたいところだ。