【ニッポンの名車】こだわり抜いたFRのような回頭性! スバル・アルシオーネSVX (3/3ページ)

素直は回頭性をもつ4WDを目指して「VTD-4WD」を開発

 エンジンは、ターボという選択肢も検討されながら、ピークパワーよりもリニア感のある太いトルクを求めて、当初の予定だった3リッターからさらに拡大した3.3リッターの大排気量(スバルとしては)のNA6気筒を採用。試作エンジンのひとつに、レガシィで実績のあるロッカーアームをもつバルブメカニズムとしたDOHCの世界トップクラスのバルブ有効開口面積を持つ高回転型のスポーツユニットも作られ、これは高回転域のフィーリングが極めてスポーティだったが、SVXのキャラには合わずお蔵入りに。

 最終的にはDOHCでありながらレガシィ用のロッカーアームをもつバルブではなく、ダイレクトプッシュ式とすることで、よりグランドツアラーに適したトルク特性を追求したタイプが採用された。これにはインテークマニホールドの充填効率の大幅な向上と、共鳴過給効果と慣性吸気効果を切り替える可変吸気機構も採用。スロットルバルブのプログレッシブ化やATの特性見直しなどにより、アクセル全開時にはスポーツカー的な加速性能を発揮しながら、通常時には大排気量NAならではの落ち着きのあるジェントルな質の加速が味わえるセッティングとなっている。

 当時としては珍しい、2500~5800回転の広範囲で最大トルクの90%以上を発揮するフラットなトルク特性を実現した。またエキゾーストは左右等長で、当時のスバル車とは一線を画す静粛性も実現している。

 操縦性にも特筆ポイントが満載だが、とりわけ注目すべきは「VTD-4WD」の新採用だ。スポーツカー的なハンドリングを求めた開発において、FRの走りの魅力は当時のスバルのエンジニアたちにも十分に理解されていた。今と違ってまだレオーネ時代のイメージが強く、「スバル=アンダーステア」のレッテルを払拭するためにも、FR的な操縦性と操舵フィールを追求したいとの思いが強かったという。

 しかし、だからといってFRを選択すべきとの声は誰からも挙がらなかった。スバルが今も昔も重視するアクティブセーフティという基準で考えれば、FRに対して4WDの方が絶対的に優位であることが明らかだったからだ。

 当初は初代レガシィにも搭載予定の電子制御油圧多板クラッチ式のACT-4が搭載される予定だったが、当時のACT-4はFF状態と直結4WDの間で駆動トルクを配分するシステムであり、3.3リッターの大トルクがフロント寄りに配分されることによる操舵フィールと回頭性の悪化が問題視された。

 グランドツアラーとして質の高い操舵フィールの確保と、回頭性の鈍さを解消するにはACT-4では力不足となり、新規の4WDシステムを開発。前後の駆動トルク配分比を後輪寄りとし、連続的に可変制御する「Variable Torque Distribution(VTD)」と呼ばれるシステムが誕生した。

 基本的なトルク配分を前輪35%、後輪65%とすることでFRのような回頭性を実現しつつ、前後直結状態まで連続的に可変させることで安定感を確保するというものだ。真冬のフィンランドなどの極限的な環境下でも入念に走り込んでセッティングを煮詰め、当時の開発陣が掲げた理想的なハンドリングを実現。

 いわゆるGTカーと呼ばれるモデルの多くは今でもFRが主流だが、悪天候時の安定性ではVTD-4WDのアドバンテージは極めて大きい。VTD-4WDシステムはその後も改良が重ねられ、今のレヴォーグやWRX S4にも搭載されている。

 このように、アルシオーネSVXはスバルファンとしての贔屓目を全力で排除し、冷静に客観的な評価をしてもやはり名車と称えたくなる傑作車なのである。唯一残念なのは燃費の悪さで、当時の広告コピーのように1日500マイルの距離を走るには2度給油する必要があるが、1991年デビューの6気筒モデルとして考えれば全然許容できる範囲といえる。


マリオ高野 MARIO TAKANO

SUBARU BRZ GT300公式応援団長(2013年~)

愛車
初代インプレッサWRX(新車から28年目)/先代インプレッサG4 1.6i 5速MT(新車から8年目)/新型BRZ Rグレード 6速MT
趣味
茶道(裏千家)、熱帯魚飼育(キャリア40年)、筋トレ(デッドリフトMAX200kg)
好きな有名人
長渕 剛 、清原和博

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