【ニッポンの名車】こだわり抜いたFRのような回頭性! スバル・アルシオーネSVX (2/3ページ)

困難を乗り越えて実現した全面3次元ラウンドキャノピー

 アルシオーネSVXの外観デザインの肝といえる全面3次元ラウンドキャノピーの実現は困難を極めた。フロント、サイド、リヤのウインドウ間にピラーが露出しないグラスtoグラスのラウンドキャノピーは、当時の大手ガラスメーカー3社に打診するも、どこも従来製法では無理との回答で、従来のガラス製法では不可能とされた。

 単にカーブしただけのガラスを作るのは簡単だが、問題はガラスにカーブを与えることによる視界の歪みで、透視歪みや二重像などの光学的な難題が立ちはだかる。わずかな歪みがガラス越しの風景を大幅に歪曲させてしまい、自動車としてまともな視界が得られなくなってしまうのだ。

 そこで、日本板硝子で開発されたプレスベンティングという、ガラスを炉の中で熱しながらプレスで曲げる方法を採用。フロントウインドウのカーブの深さは、レガシィの8ミリに対して15ミリとなったが、これはガラスの歪みの限界であり、ワイパーの追従性の限界だった。

 さらに、ミッドフレームの上部を構成するアッパーサイドのウインドウは、細長くカーブがきついため曲げ加工が難しかったが、一方から圧力をかけ、一方からバキュームで型に密着させる新製法を開発。これらのガラスのピラーへの取り付けも困難を極めたが、エンキャップシュレイテッドモールという、ガラスを型に入れて周囲にウレタン樹脂を射出し、モールと一体構造にしてしまう方法でこれを解決。このように、全面3次元ラウンドキャノピーはさまざまな困難を技術革新で乗り越え実現している。

 全面3次元ラウンドキャノピーの実現には、ボディ側の革新も求められた。当時はまだ世界的にも量産車での採用例が少なかった100%亜鉛メッキ鋼板で構成されたモノコックボディを採用。

 キャビンの外面にピラーを露出しないようにするため、ピラー部分は必要な強度を確保しながら可能な限り細くすることが求められた。溶接を見直し、亜鉛メッキの厚みを表す目付け量は1平方メートルあたり60~80グラムと非常に贅沢な値とすることなどでこれを実現。

 さらに、地面に近いためサビやすいフロアの補強材の多くを床上に配置した点も車体設計の特筆ポイントだ。たとえば、実質2名乗りの当時のポルシェ各車は居住空間を犠牲にしてフレームを居住空間にまで張り出させて剛性を高めていたが、グランドツアラーを目指すアルシオーネSVXは、メインフレームだけは床下に配置することでセダン並みの居住生と快適性を確保することを求めた。結果として、剛性が高くサビにも強く、室内が広く使える車体が出来上がった。25年以上経った今乗っても驚くほど高い剛性感を備えている。

 内装に関しては、外装に比べると地味でつまらないと過小評価されがちで、確かに地味さは否めない。しかし、それは幾何学構成のシンプルさを追求した結果で、ある意味狙い通りといえる。地味ながら質感の高さはフラッグシップに相応しく、今見ても感心させられる点が多い。

 また、円形モチーフの温度調整スイッチは、温度表示の円形窓そのものがシーソー式のスイッチになるというアイディアで特許も取得するなど、創意工夫が多々見られる。さらに、当時の新素材エクセーヌ(今ではアルカンターラやウルトラスエードとも呼ばれる)は、直接太陽光が当たらない箇所に配置するべきものだったが、SVXの全面3次元ラウンドキャノピーはUV機能を備えるため、シート表皮など内装の広範囲に配置することができるようになったなど、SVXならではの美点は内装にもしっかり活かされた。

 また、全面3次元ラウンドキャノピーは室内の温度上昇を抑制する効果も高く、空調面でもメリットが大きい。当時はエンジンの高負荷時で冷却性能に余裕がなくなるとエアコンをカットするシステムが一般的だったが、コンプレッサーの外部制御システムでこれを克服している。

 さらに見えないところでは、ポリエチレンとナイロンを接着した3種5層構造で、安全で複雑な形状を可能とした樹脂製燃料タンクの新採用も当時としては斬新であった。


マリオ高野 MARIO TAKANO

SUBARU BRZ GT300公式応援団長(2013年~)

愛車
初代インプレッサWRX(新車から28年目)/先代インプレッサG4 1.6i 5速MT(新車から8年目)/新型BRZ Rグレード 6速MT
趣味
茶道(裏千家)、熱帯魚飼育(キャリア40年)、筋トレ(デッドリフトMAX200kg)
好きな有名人
長渕 剛 、清原和博

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