クリーンディーゼルはガソリンよりもクリーンというわけではない
ディーゼルエンジンは、軽油を自己着火させるシステムです。ガソリンを点火着火させるガソリンエンジンと違いがあります。自己着火させるためには、燃焼室内に高い圧力と温度が必要になるので、エンジンの圧縮比が高くなります。それが要因となって、高トルクや低燃費といったメリットと同時に、エンジンのノイズや振動の大きさ、高回転まで回らない、そしてPM(粒状化物質)やNOx(窒素酸化物)が出やすいというようなデメリットがあります。
黒い煤を大量に吐き出しながら、ガラガラと盛大な音を立てて走るトラックを、30年くらい前は良く見かけました。とくに日本国内ではトラックのハイパワー競争もあり、さらにチューニングされたトラックもあって、そうした状況はかなり激しかったのです。
大きな変革があったのは1990年代に入ってからです。高圧の燃料噴射システムが採用され始め、燃焼を細かく制御することが可能になりました。ガソリンエンジンでは、吸気量と燃料噴射量と点火タイミングで燃焼状態を変化させることができますが、ディーゼルエンジンではそのすべてが基本的に燃料噴射で決まります。
高温下の燃焼室内に燃料を噴射することで燃焼が始まるディーゼルでは、極めて短い時間に噴射する必要があり、その精度を高くするには高圧の噴射が必要でした。コモンレール式というのは、その高圧燃料噴射システムのひとつです。その登場によって、PMやNOx、ノイズや振動を抑えることができる環境が整ったわけです。
ヨーロッパでは5年ほど前まで、ディーゼルエンジンが新車の半数以上を占めてきました。その要因のひとつは、カンパニーカー制度が存在したからです。企業が社員のクルマを用意・提供するシステムで、一般的に車両価格ではなく、クラスが指定されます。
つまりVWパサートとなった場合、ガソリンでもディーゼルでもどちらでもいいわけです。燃料代は自分持ちですから、車両価格が高くてもディーゼルを選ぶのが論理的ですよね? そういう前提でディーゼルが多かったわけで、決してガソリンよりもディーゼルが好きで選んでいたわけではないのです。現在はディーゼルのシェアは30%台に落ちていますし、そもそも個人所有車では10%程度だったのです。
日本では、最近のディーゼルはクリーンディーゼルと呼ばれています。これはかつてとても有害成分が多かったディーゼルが、ガソリンエンジン並みのレベルに到達した、ということです。ただ現実的には、ガソリンエンジンのほとんどは規制値の4分の1以下になっているので、ディーゼルは4倍の有害成分を排出している、といっていいかもしれません。つまりガソリンエンジン並みにクリーンになったわけではなく、ひと昔前のディーゼルエンジンよりはクリーンになった、ということです。
これからディーゼルエンジンは、かなり辛い状況になっていくことが予想されています。それは排出ガス規制がどんどん強化されていくことが想定されているからです。燃焼の制御を考えるとディーゼルは不利で、さらに規制値が厳しくなっていくと、それは最終的にコストや燃費に跳ね返ることになります。たとえばマツダのスカイアクティブDのようにNOx吸着触媒を使わずに、コストと燃費メリットを大きくしているメーカーもありますが、今後規制が厳しくなればシンプルなシステムでクリアするのは難しくなっていきます。
ヨーロッパの大都市では光化学スモッグの発生も問題になっていて、直接的な健康被害が出ています。それで都市部へのディーゼル車の乗り入れ制限が検討されています。燃費が良い=CO2排出量が少ないことがディーゼルのアピールポイントではありますが、そんなことより直接的な健康被害のほうが優先されるのは、当然のことです。
また自動運転などの制御にとっても、レスポンスの悪いディーゼルエンジンはあまり都合が良くありません。そう考えるとディーゼル乗用車に乗れる時代は、もうすぐ終わりに近づいているのかもしれません。