レーシングドライバーでも剛性と剛性感を混同することも
2000年代にわずか1勝しただけで終わったホンダのワークスF1時代、ボディもエンジンもホンダですから、トータルでマシン開発をしていました。あるドライバーが剛性が低いというので、エンジンのマウント部分を強化したんですね。
F1マシンではエンジンやトランスミッションもマシンの構造の一部で、実際にリヤサスペンションはトランスミッションにマウントされます。つまりエンジンのマウント部分を強化することは、剛性を向上させることになります。
しかし、そのドライバーは相変わらず剛性が低い、というのです。それでホンダはさらにマウント部分を強化しました。これなら大丈夫だろう、と。しかし、それでも剛性が低いと言うのです。
彼がアピールしていたのは実際の剛性ではなく、剛性感だったことにホンダのエンジニアはやっと気がつきます。それでマシン全体を見直して、剛性感を高めることになりました。
たとえばステアリング系のマウントが緩いだけで、剛性感はかなり低下します。ボディ剛性が高くても、ドライバーは剛性感を低く感じます。ステアリング系の剛性が低いわけですが、それでもボディ剛性が低いと表明したりするのです。
またよくドアの閉まり具合や閉まる音でボディ剛性を感じたりする人もいるようですが、そもそもドアにはボディからの力が伝わっておらず、ボディ剛性ではなくドア剛性が感触や音として伝わっているのです。ドアやハッチバック、ボンネットやトランクリッドは、基本的にはフタでしかないのです。
ボディ剛性とは、ボディの曲がりにくさのことで、通常はあまり感じることができません。ドライバーにとって重要なのは剛性感で、ドライビングをする上で、またドライビングを楽しむ上で、大事な要素になります。ボディ剛性は直接的に性能に影響します。ハンドリングやブレーキング、乗り心地など、クルマの走行性能を支えています。チューニングするにはボディ剛性は重要ですが、剛性感の向上を意識しないと楽しいクルマに仕上がらないかもしれませんよ。