TVRの最盛期の代表車種2代目タスカン
そのもっとも良かった時代を象徴するモデルを1台あげろといわれたら、それはこの1999年デビューの2代目タスカンとなるかも知れない。
大きなうねりを見せるボディ・パネル、6つ目の顔やあり得ないところに位置する尾灯類。前衛的というか未来的というか有機的というか何というか、とにかく目が惹き付けられるスタイリングである。それがロング・ノーズにショート・デッキという古典的な不文律を守りながら、全長4235mm、全幅1720mmというホンダS2000より10cm長くて3cm細い程度のコンパクトなサイズに収まっているのが、まず見事だ。
インテリアがまた驚きで、レザーやアルミや真鍮といった素材を大胆にあしらった、前衛と古典が不思議と溶け合ったような雰囲気。コンセプトカーのようでもあるが、それぞれの素材感が浮き立っていることもあって工芸品のようでもある。
そこへ出入りする方法もかなり特殊で、まずドアには表側にも内側にもオープナーが見当たらない。外から開けるにはドア・ミラーの下にあるボタンを押し、内から開けるにはセンター・コンソール上部の小さなボタンを押す、という仕組みなのだ。これを知らければ乗り込むことも降りることもできない。
タスカンは小説家・絲山秋子さんの『スモールトーク』という作品のなかに登場し、“いかがわしいクルマ”というように形容されているが、納得といえばすんなり納得、である。もちろんそれは、半ば以上ホメ言葉として使われているのだけれど。
そして印象的なのは、そうしたルックスだけじゃなかった。TVRのクルマ達は鋼管スペースフレームとFRPボディを組み合わせた軽い車体というのがひとつの伝統となっていて、ウィラーのクルマ作りはウィルキンソン時代に生まれた初代グリフィスのように、そこに過激とすらいえるパワフルなエンジンを搭載する手法をなぞっていた。
タスカンは1100kgほどの車体に“スピード6”という自社製の直列6気筒DOHCユニットを搭載し、それはもっともマイルドなスペックは3.6リッターの355馬力、パワフルなスペックは406馬力。しかも、トラクション・コントロールも持たされてなければABSすら与えられていない、21世紀を直前にしてデビューしたクルマとは思えないくらいのネイキッドぶり。いうまでもなく凶暴とすらいえる荒馬ぶりを遺憾なく発揮する緊張感を途切れさせることのできないクルマだったが、コントロール性が悪いというわけではなく、その蛮勇な世界観が本質的には好戦的である英国人に支持された。
僕も何度か試乗をしたことはあるが、制御するのは確かに簡単ではなかったけど、強烈に刺激的で強烈に楽しかったことは、今になっても忘れることはできない。
TVRはこの2代目タスカンの後にもマツダ・ロードスター並みの車体に350馬力を詰め込んだ“タモーラ”を発表するが、2004年、会社そのものが当時24歳だったロシア人の大富豪、ニコライ・スモレンスキーによって買収されてしまう。そしてこの男が、TVRを崩壊させた。2006年には事実上の倒産に追い込まれてしまったのだ。
24歳の創業者が夢を追ってスタートさせたスポーツカー・メーカーを、時を隔てて24歳で受け継いだ男が破滅させるとは、何とも皮肉な巡り合わせである。
が、スモレンスキーは何度か悪足掻きを繰り返したあと、2013年に経営権を自動車業界にも明るい実業家、レス・エドガーに売却し、TVRブランドは復興に向かって着々と進みつつある。
かのゴードン・マレーと彼のデザイン事務所がデザインと設計を担った1200kgほどの車体に、あのコスワースが開発する480馬力ほどのV8ユニットを搭載するといわれる新世代TVRは、この9月に英国で開催されるグッドウッド・リバイバルで初公開することが発表されている。ひとりのTVRファンとしては、何とも待ち遠しい。