機能面ではドアミラーよりも優れた装備
もう、ずいぶん昔の話になってしまうが、かつて日本の道路上で「ドアミラー」のクルマを見かける機会は少なかった。1980年代前半にドアミラーが解禁になるまで、少なくとも国産車のほとんどはフェンダーミラーといってフロントフェンダー部分にバックミラーを装着していたのだ(ワンボックスなどのキャプオーバーは除く)。
ドアミラーが解禁されたのは、事実上の外圧であり、その機能性というよりもデザイン性が優先されての判断だった。実際、ドアミラー解禁になったばかりの頃、ベテランドライバーからは「フェンダーミラーのほうが視線移動を少なくできるから安全」、「ミラー・トゥ・ミラーの幅がドアミラーだと広くなってしまうので、狭い路地ではフェンダーミラーのほうが走りやすい」といった声もあった。
そうしたフェンダーミラーの物理的なメリットに対して、ドアミラーが追いつくことは難しい。つまり、今でもフェンダーミラーは、ある種のニーズに対しては有効といえる。タクシー専用車がフェンダーミラーを採用しているのは、そうした理由によるところが大きい。
一方で、デザイン性という点ではドアミラーが優位といえる。とくに1980年~90年代にはボンネット(フロントフード)が低くなっていったのでフェンダーミラーを装着すると脚の部分が長くなってしまい、それがデザインを損ねるという声もあった。
しかし、歩行者保護の観点からボンネットが高くなっている現在のトレンドからすると、フェンダーミラーの脚は短くできるだろうし、デザインをスポイルしないフェンダーミラーというのもあり得る。もっとも、歩行者保護を考えると、フェンダー部分に大きな突起物を置いておくのはノーサンキューともいえるかもしれないが……。
たとえば2017年のWEC(世界耐久選手権)においてポルシェが走らせているLMP1マシンは、まさにフェンダー部分にミラーを埋め込んでいる。これは視線移動を少なくするためのアイディアで、その物理的なメリットは現在においても有効という証の一つだろう。
バックミラーをカメラとモニターで代替するCMS(カメラモニタリングシステム)が認められるようになっているため、次世代バックミラーというとCMSに注目が集まりがちだが、新しいカタチのフェンダーミラーが登場してくる可能性にも期待したい。