【世界の名車】祝60歳! ルパン三世でお馴染み2代目フィアット500 (2/2ページ)

エンジンは笑えるぐらいのローパワーでも走りは見事

 そのエンジンは、当初は479ccで13.5馬力、最後期の594cc版になっても23馬力。今の感覚からすれば笑っちゃうぐらいのアンダーパワーで、加速力、高速巡航ともに絶望的といえるくらいに遅い。けれど、ホイールベースとトレッドの比率の良さ、機構としてはプアながら巧みにセットされたサスペンション、RRレイアウトによる動的バランスなどが見事に調和していて、ハンドリングは悪くないしコーナリングは思いのほか速い。

 限りあるパワーを4速ノンシンクロのマニュアル・トランスミッションで有効に使いながら、スムースかつ素早くワインディングロードを駆け抜けていけることは、今でもチンクエチェント乗りの秘かな誇りである。登り道では苦笑いするしかないけれど。

 ともあれ、2代目チンクエチェントは売れに売れた。簡素なクルマゆえかなり安価だったこともあったし、当初はイタリアの庶民のアシだったスクーターを高額で下取りするような販売方法を採ったこともあったが、その甲斐あってイタリアのごくごく普通の人達は自動車でどこにでも走っていける自由、自動車という乗り物を操り走らせる面白さ、自動車という空間のなかで愛し合う幸せ、自動車で家族まるごと移動できる楽しさ……いや、それはもう数え切れないほどのクルマが与えてくれる幸福というものを享受できるようになったのだ。

イタリア人なら老いも若きも必ずチンクエチェントにまつわる想い出をひとつは持っているといわれるけれど、それは決して大袈裟な話じゃない。もちろん輸出された個体も少なからずあるけれど、何せ1977年の生産中止までに400万台ほどが作られ、街なかや農道をポロロロロ……という独特のサウンドを奏でながら走り回っていたのだから。そして現在もイタリアのみならず世界中のファンに愛され、大切に維持されてるチンクエチェントがたくさん生存していることも、クルマ好きの間ではよく知られているところだ。

 そういえば今日、7月4日は3代目フィアット500の満10歳の誕生日でもあるのだった。2代目チンクエチェントのイメージを現代流に再解釈した愛嬌のあるルックスと、その楽しい世界観を持った現行チンクエチェント。こちらも世界中で大人気となり、2015年には生産累計150万台をマークして、今もその勢いはまったく衰えていない。これまた魅力たっぷりなクルマではあるのだけど、そちらのお話はまた別の機会に──。


嶋田智之 SHIMADA TOMOYUKI

2024-2025日本カー・オブ・ザ・イヤー選考委員

愛車
2001年式アルファロメオ166/1970年式フィアット500L
趣味
クルマで走ること、本を読むこと
好きな有名人
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