水素は輸送も貯蔵もコストがかかる
しかしデメリットも当然あります。まずエネルギー密度が極めて低いことです。これは常温で気体、というよりも高圧下でなければ液体にならないので、タンクが巨大になったり高圧タンクになったりで、その取り扱いが大変です。蒸発してしまうのも大きな問題で、タンカーによる海上輸送では1日あたり約3%もの水素が失われ、つまり2週間かかれば半分になります。
そもそも水素を生成するのに、エネルギーが必要になります。そのエネルギーは電気がもっとも適切で、シンプルなのは水を電気分解する方法です。つまり電気によって水素を生成し、そこから電気を得ることになります。つまり電池として水素タンクが使われているわけです。
ただしエネルギーは変換する時に確実にロスが出ます。たとえば一般的なリチウムイオン電池は充電して放電すれば、エネルギー量は元の電力の50%を超える程度になります。制御回路や熱、放電によって自動的に失われていくのです。電気分解&燃料電池でも、それぞれの変換効率は最高レベルでも50%を少し超える程度なので、つまり元の電力は25%程度になってしまうのです。
水素社会のベースになるのは、やはり燃料電池です。そこで使われる水素ガスは、極めて純度の高いものでなければなりません。その部分でもまたエネルギーが使われます。また基本的に燃料電池は高温下で効率が高くなります。家庭用燃料電池では温水給湯システムが一体化していますが、それは燃料電池で使われる熱を利用したものです。一方で自動車用燃料電池では高温だと困るので、効率低下を許容して比較的低温で反応するシステムが採用されています。
水素の輸送は効率が悪いので、水素社会が成立するためには、まずごく近くに水素を副生成物として生み出す施設が必要でしょう。火力発電所を都市の中央に据えるのは難しいですが、燃料電池発電所なら問題はないでしょう。ただし安い余剰電力を使って精製などをしようとする前提であれば、原子力発電所は不可欠ということになります。
現在は一応日本の国家的なプロジェクトとして水素社会を目指しています。だから水素社会の方向へと進むことは間違いありません。ただそれが仮に実現したとしても、コストに見合うものになるか? 本当に我々にとってメリットがあるのか? それは別問題です。