2016年度自動車アセスメント(JNCAP)結果を発表
国土交通省および自動車事故対策機構(NASVA)は5月29日、新型車の安全性能を評価する自動車アセスメント(JNCAP)に関する2016年度の結果を発表。そのうち「衝突安全性能評価」で、新型スバル インプレッサ/XVが199.7点を獲得。過去最高の得点をマークした車両に贈られる「JNCAP大賞」を受賞した。
JNCAPでは、一般の自動車ユーザーがより安全なクルマを選びやすいよう、また自動車メーカーがより安全なクルマを積極的に開発するのを促すため、国交省およびNASVAが各年度内に発売された新型車を対象として安全性能の評価テストを実施し、その結果を公表している。
1995年度にスタートした時点ではフルラップ前面衝突試験とブレーキ性能試験を行うのみだったが、1999年度からは側面衝突試験、2000年度からはオフセット前面衝突試験を実施するとともに衝突安全性能の総合評価を開始。2001年度からは「チャイルドシートアセスメント」も実施されている。
自動車アセスメントにおいてはさらに、2003年度から歩行者頭部保護性能試験、2008年度からはサイドカーテンエアバッグ装着車の展開状況と展開範囲の評価が加わり、2009年度からは後面衝突頚部保護性能試験、前面衝突後席乗員保護性能評価、後席シートベルト使用性評価試験、座席ベルトの非装着時警報装置評価試験が追加された。
2011年度からは歩行者脚部保護性能試験、ハイブリッドカーやEVなどを対象とした衝突後の感電保護性能評価を実施するとともに、新安全性能総合評価を開始。そして2014年度からは「予防安全性能評価」をスタートし、今回の2016年度からは「予防安全性能評価」に対歩行者被害軽減ブレーキの評価を追加している。
「衝突安全性能評価」では、軽自動車2車種、乗用車7車種の計9車種について、フルラップ前面衝突試験、オフセット前面衝突試験、側面衝突試験、後面衝突頸部保護性能試験、感電保護性能試験、歩行者頭部/脚部保護性能試験、ブレーキ性能試験、後席シートベルト使用性評価試験、シートベルトリマインダー評価試験を実施し、歩行者保護性能100点、乗員保護性能100点、シートベルトリマインダー8点の計208点満点で評価。今回は9車種のうち6車種が、合計170点以上かつ各項目の個別評価が最高評価から2段階以上下まわっていない車種に贈られる「衝突安全性能評価ファイブスター賞」を獲得している。
そのなかでも新型スバル・インプレッサ/XVが、初めて歩行者保護エアバッグの性能評価試験を受けるとともに、2013年度に189.7点を記録したトヨタ・クラウンを上まわり、過去最高の199.7点をマーク。過去最高の得点をマークした車両に贈られる「衝突安全性能評価大賞」を受賞し、さらに初めて歩行者保護エアバッグ性能評価試験を受けたことが高く評価され「衝突安全性能評価特別賞」が贈られた。
「予防安全性能評価」では、軽自動車5車種、乗用車17車種の計22車種について、対車両被害軽減ブレーキ32点、対歩行者被害軽減ブレーキ25点、車線はみだし警報8点、後方視界情報(バックビューモニター)6点で、性能試験を実施。その結果、日産セレナ/スズキ・ランディが最高得点の71点満点を獲得し、マツダ・アクセラが70.5点、スバル・フォレスターが69.5点、スバル・インプレッサ/XVが68.9点、スバル・レヴォーグ/WRXが68.5点を獲得してそれに続いた。
「チャイルドシート安全性能評価」では、乳児・幼児兼用チャイルドシート6製品、幼児専用チャイルドシート1製品の、前面衝突試験および使用性評価試験を実施。前面衝突試験の結果は「優」「良」「普」「推奨せず」の4段階、使用性評価試験は25点満点で評価した結果、タカタ・チャイルドガード1.0(幼児用)とピジョン・キュピオ(乳児用)が前面衝突試験で「優」、エールベベ・クルット4sが使用性評価試験で今年度最高得点の21点を獲得している。
同日に東京国際フォーラム(東京都千代田区)で開催された結果発表会では、ファイブスター賞受賞車種の表彰式およびテスト車両の展示が行われるとともに、インプレッサ/XVの開発を指揮したスバルの井上正彦PGM(プロジェクトゼネラルマネージャー)によるプレゼンテーションが実施された。
その席で井上PGMは「新開発のスバルグローバルプラットフォームを採用し、歩行者保護エアバッグを全車標準装備したことが、衝突安全性能評価大賞受賞の大きな要因」としながら、「社内では203〜4点取れるものと予測していたが、200点にわずかに及ばなかったことは残念。今後も継続的に安全技術を進化・充実させることで、お客様に安心と愉しさを提供し続けていく」とコメントしている。
また、車両展示コーナーでは、スバル・インプレッサ/XVに標準装備されている歩行者保護エアバッグの展開デモンストレーションを実施。本来は0.07秒で開く歩行者エアバッグを2秒間で展開し、ボンネット後端中央から左右へ、さらに左右Aピラーの下側から上側へとエアバッグが広がり、歩行者の頭部が衝突すれば致命傷に至りやすい硬い部位が覆われていく様子が披露された。なお、フロントバンパーが外され、その内側に装着されているチューブセンサーを見ることもできた。
結果発表会の冒頭では、NASVAの大森隆弘自動車アセスメント部長が、自動車アセスメントを取り巻く近況を説明した。そのなかで、2017年度からはフルラップ前面衝突試験において助手席に小柄な女性を模したダミーを搭載し、フルラップおよびオフセット前面衝突試験では高齢者を考慮した評価基準を導入。側面衝突試験では側面衝突用ダミーを高性能なものに変更するとともに側面衝突車両を大型化し、2018年度からは事故自動通報装置の評価を開始するなど、衝突安全性能評価の試験内容をより厳しいものに変更する方針が示された。
予防安全性能評価についても2017年度より、対歩行者被害軽減ブレーキについて夜間の環境における評価、2018年度からはペダル踏み間違い時加速抑制装置の評価を追加する計画が明らかにされている。
また、エアバッグが展開する事故が発生した際にクルマから自動的に事故発生地点などを通報する「事故自動通報システム」の認知度が低いことから、そのパンフレットを作成。昨年11月に日産セレナのプロパイロットを装着する試乗車がディーラー店員の誤った認識により追突事故を発生させたため、今年4月に国交省と警察庁が関連団体に周知を要請したことなどに代表されるように、予防安全装置に対する過信防止が課題となっていることが紹介された。
警察庁の発表によれば、2016年の交通事故死者数は3,904人と、1949年以来67年ぶりに3千人台へ減少したものの、そのなかで歩行者は39.4%、65歳以上の高齢者は54.8%と、両者の占める割合は高い。また、前述のプロパイロットの事故に代表されるように、予防安全装置に対し過信・誤認識している自動車ユーザーは多く、JAF(日本自動車連盟)が昨年2月に実施した調査によれば、45.2%の自動車ユーザーがその機能を誤って理解している。
クルマの安全性能は歩行者対応を中心としてまだまだ進化の余地がある一方、自動車ユーザーがその機能を、作動しない条件も含めて正しく認識していなければ、かえって事故を誘発しかねない。自動車メーカーやディーラー、また我々メディアが自動車ユーザーに対し正確かつ誤解を与えない表現で安全技術を紹介するとともに、自動車ユーザーも最低限、安全技術が決して万能ではないことだけは理解することを願ってやまない。