スタディモデルとして作られたコンセプトカーゆえの困難な量産化
いよいよ正式デビューを果たしたレクサスLC500h/LC500。ベースとなったのは2012年のデトロイトモーターショーでお披露目されたコンセプトカー「LF-LC」。量産化を考慮していないスタディモデルとしてデザインされていたために、誰もが市販は不可能と考えていた。じつはLCの開発プロジェクトでチーフエンジニアをつとめた佐藤恒治さん自身もそのひとりだった。
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「プロジェクトがスタートして、まずは直感的に成り立たないだろうと思われる部分を図面化したり、既存のプラットフォームに既存の技術で要件を落とし込んでみたりといった検証を行ったんです。ですが、得られた結論は似て非なるクルマしかできないというものでした」
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じつは佐藤さん、この時点で上層部に「勇気ある撤退」の上申までしている。LF-LCのカッコ良さを中途半端に再現したクルマにしかならないなら、いっそやるべきではないという考えによるものだ。だが、上層部からかえってきたのは、「できないからこそやるんだ」という熱い回答だった。
「グッときましたね。本当に感動してしまった。これはもう何が何でもやるしかないぞと」
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とはいえ、杖をひとふりしただけで願いが叶う魔法などない。高いハードルを克服するために開発チームが取った手段は、ひたすら地道に泥臭く、あらゆる部分をミリ単位で見直すことだった。
「部品の精度のバラつきについても徹底的に追い込んだんです。バラつきが小さくなれば、組み込んだときに必要なすき間も小さくなる。そんな凄まじく地味なことを、来る日も来る日もやり続けたんです」
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新型プラットフォームを使った試作車が完成し、はじめてエンジンに火が入るという日、30人もいればいっぱいというその部屋に、100人ものエンジニアが集まった。静まり返った部屋にぎゅうぎゅう詰めとなったエンジニアたちが固唾をのんで見守るなか、いよいよイグニッションスイッチに指がかけられた。
エンジンが唸り声を上げた瞬間、部屋のなかは、大歓声と拍手でいっぱいになり、なかには涙ぐむエンジニアもいたという。一般的な新車の開発ではありえない光景だった。それほど今回の開発のハードルは高かったのだ。
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「日本のクルマ作りは欧州車に追いつけ追い越せでやってきたと思います。かつては、『レクサスも頑張っているけれど、欧州のラグジュアリー車にはまだ勝てないね』と言われて悔しい想いをしたこともありました。でも、今では勝ち負けではないと思っています。
たとえば高級レストランだったら、極上の鴨料理と魚料理の店で、どちらが上かなんて考えないじゃないですか。それぞれの店に個性があって、その個性こそがラグジュアリーだと思うんです。我々レクサスも、そういう領域に入っていけるようになったと思っています」
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クルマが好きで好きでたまらないと語る佐藤さん。不可能を可能にできた最大の理由は、クルマに対する情熱の高さだったのだろう。