ライバルの911ターボSやDB11よりも過激な走り
GTC4ルッソTが、V12のGTC4ルッソと異なっているのは、そんな加速性能だけではない。シャーシもそのままサーキットに持ち込めるほど、レーシーだった。もちろんV8ターボの巨大なトルクは、たった2本のリヤタイヤでは受け止められない。
そこで登場するのがステアリングホールに配置されたマネッティーノと呼ばれる走行モードスイッチだ。ウエットモードではラフなアクセルの踏み方でも車両が自動で出力とトラクションをコントロール。雪上での発進もサポートするほど猛獣はおとなしくなり、コンフォートモードでは変速ショックがマイルドになる。
しかし、スポーツモードは危険な香りがする。ESCの作動こそ残されてはいるが、アクセルを踏み込んだまま加速してパドルを操れば、件の脳みそがぐらつくほど暴力的な素性が顔を出す。
それに加え、V8ターボのハンドリングは驚くほど限界が高い。良く練られたプログラムを持つESCが作動し、リヤアクスルをただちに落ち着かせてくれる。ESCが作動している限りはたとえV8ターボエンジンが素顔を覗かせても、クルマが自らをある程度はコントロールしてくれるのでドライバーは安心してステアリングを握れる。
気になったのは、バンピーな路面ではかなりサスペンションが固く感じられたことだ。V12モデルよりもスポーティに仕立てたキャラクターだと理解すれば良いのかも知れない。フェラーリによれば、V8ターボを搭載するGTC4ルッソTのユーザーターゲットは、比較的若く設定されているのだという。それはそうだろう。V8ターボの加速力は年寄りには辛すぎるはずだ。
確かに価格的もV12に比べ約500万円も安価な設定なので、これまでフェラーリを価格面で敬遠していた層にもアピールしそうだ。ずばり、ライバルはポルシェ911ターボSや、こちらも初のターボエンジンを搭載したアストンマーティンのDB11あたりか。だが、この両者と比べても、走りっぷりはV8ターボのGTC4ルッソTが、シューティングブレイクのスタイリングにもかかわらず、もっとも過激だろう。
フェラーリが言うように、はやりV12の高級GTとはひと味もふた味も異なっていることが理解できた。クルマと対話しながらグランドツーリングを楽しみたいなら、V12のGTC4ルッソがいい。それに対してスタイリングは同じでも、V8ターボはリアルスポーツカーと呼んでも差し支えないパワーと走りを持っていた。
V12とV8ターボは確実に異なる個性を持っているのだ。廉価版でもなくダウンサイジングターボでもない、V8ターボ+後輪駆動の魅力は、体内をアドレナリンで溢れさせるようなパフォーマンスであることは間違いない。