不可能とも思われたマスキー法をクリアした革新的な燃焼技術
自動車の技術の多くは、じつは航空工学からのブレークスルー(簡単にいえばお下がり)ですが、画期的技術に関しては独自のものが多いのも事実です。そのひとつがホンダが1970年代初頭に開発、市販化したCVCCです。
CVCCとは、複合渦流調整燃焼方式、Compound Vortex Controlled Combustionの略号です。アメリカでマスキー法(大気汚染を防止する目的で自動車の排出ガスを規制する法律)が可決され、半ば途方に暮れていた世界中の自動車メーカーとエンジン設計者を驚嘆させた画期的なエンジンの燃焼技術です。
CVCC以外でマスキー法をクリアできる技術は、マツダがロータリーに組み合わせたサーマルリアクター方式くらいのものでしたが、その方式はエンジン外部で排気ガスに燃料を入れて(あるいは未燃ガスを使って)再燃焼させるため、燃費が極めて悪く実用的とは言い難いものでした。
CVCCのメカニズムは、薄い混合気を通常の燃焼室に、濃い混合気を副燃焼室に入れ、その副燃焼室に配置されたスパークプラグで点火・燃焼させる方式です。これによって排気ガスはクリーンになり、燃費は悪化せず、しかも一切の後処理装置が不要、という画期的なクリーンエンジンが完成したわけです。
構造としては吸気バルブが主燃焼室と副燃焼室の2、排気バルブが1の3バルブ方式で、キャブレターも2系統となったものの、後処理装置不要というのは、コストの面でも大きなアドバンテージでした。苦労していたトヨタが、ホンダに技術協力をあおいでCVCCエンジンを開発、市販したほどだったのです。
その後、酸化触媒を装着してレスポンスやパワーを改善しました。その頃のCVCCを運転した記憶がありますが、当時の軽量なクルマには十分なパワーで、エンジンはレッドゾーンを超えて7200rpmくらいまで何のストレスもなく回っていたのを覚えています。しかしCVCCが画期的なのは、そういう目先のことではありません。