開発費用をかけずにラインアップを充実させる
自動車業界ではよく行われているOEM供給というものがある。これは他メーカーが生産している車両を少々手直しして自社ブランドで売ることで、バッジエンジニアリングなどとも呼ばれている。
現行車で例を挙げるなら、スズキがハスラーとして生産している車両をマツダがOEM供給を受けてフレアクロスオーバーとして販売しているようなことである。
しかし、自動車メーカーはなぜこんな回りくどいことをするのか、と疑問に思った人もいるのではないだろうか。じつはこれには自動車メーカーのさまざまな思惑があるのだ。
ではまずどんなクルマがOEM供給されるのだろうか? これは簡単、自社のラインアップにない車種である。前述のハスラー→フレアクロスオーバーなどは分かりやすい例で、マツダは1998年に3代目キャロルの生産を終了して以来、軽乗用車の自社生産をしていないのだ。
もちろん、ラインアップにない車種が欲しければ自社で開発、生産すればいいと思われる方もいるかもしれない。しかし、新たにクルマを開発、生産するとなれば莫大な費用はかかるし、生産ラインの確保も必要となってしまう。つまり、OEM供給を受ける車種というのは、そのメーカーにとって新たに開発、生産するほどではないものの、ないと物足りないという絶妙なラインの車種ということなのである。
例えば、マツダユーザーの子供が免許を取ったのでクルマを買う、というシチュエーションになった場合、まず顔を出すのは付きあいのあるディーラーだろう。しかし、免許取り立てということで軽自動車を希望した場合でも、該当車種が存在しなかったら他のメーカーのディーラーへ行ってしまうかもしれない。
そうすると、顧客を失うことにつながってしまう恐れがあるわけだ。こういったことを防ぐためにも、自社のラインアップをまんべんなく補完するためにOEM供給を受けるというわけだ。
当然、OEM供給をする側にとっては他メーカーで販売されても利益は発生するため、供給する側にもメリットがないわけではない。もちろん、販社からしてみれば、同じ車種が他メーカーからも販売されているということでセールス面で苦戦する可能性があるため、手放しで喜べないという話もあるわけなのだが……。