2次元で描かれたデザインを粘度を削って3Dで具現化する
最近の日本車はどんどんデザインがよくなってきていて、面の質やエモーショナルなラインなど、造形のレベルも格段に上がっている。消費者の価値観の多様化や、市場でのデザインへの要求の高まりなどが、その背景にあると言っていいだろう。
その流れのなかで、重要性を増しているのがモデラーだ。クルマのデザインや開発過程に興味があるひとなら、クレイモデルという言葉を耳にしたり、写真で見たことがあるだろう。デザイナーのスケッチを工業用クレイ(粘土)で立体化し、検証したり、生産型製作のベースにするなど、その重要度はかなりのものだ。モデラーは、フィギアでいえば、原型師といっていいだろう。
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カーデザイナーというのは、かっこいいスケッチをサッと描きあげるイメージの華やかな職種だが、それは平面、つまり2次元のもの。カッコ良さを求めるあまり、「この端っこの部分、どうやって立体化するの?」なんて言いたくなるような表現をしているケースも少なくない。
それを立体にするためには、デザイナーに負けない造形センスが必要だし、デザイナーの意図を的確につかみながらその良さを3次元的に伸ばしていく能力も大切だ。
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たとえばサイドにキャラクターラインを入れるとしても、スケッチでは線が描いてあるだけ。どれぐらいの幅で、どの程度深く入れるかは、モデラーが削りながら決めていく。同じ一枚のスケッチを立体化するにしても、モデラーが違えば、その立体モデルも全く違ってしまうほどの差が表れる。
プレス技術の進化にともない、より繊細な面やラインが生産化できるようになった状況も考えると、モデラーの重要度は、今後もますます高くなっていくだろう。
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最近では、デジタル上で3次元をシミュレーションする、3Dモデリングなども登場してきている。クレイモデルよりも短い時間で検証できるといったメリットがあるが、たとえば、世界各地のさまざまな光のもとでどんなふうに違ってみえるかといった微妙な差は、とてつもないデータ量を必要とするためにスーパーコンピュータでもなければシミュレートしきれない(実際に自動車メーカーでは、開発中のクレイモデルを世界各地に運んで検証することがある)。
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人の感性に訴える「官能表現」の領域は、最終的にはクレイで実際の形を作らないとわからないという。
(写真:本田技研工業)