徹底的なバランス取りでフリクションの少ない回転を実現
燃料の供給方式は、微粒化した燃料をシリンダー内に直接噴射する直噴と吸気ポートに噴射するポート噴射を併用する。直噴はガソリンが蒸発する際の気化熱を利用することで、吸気の温度を下げてノッキングを効果的に抑えることができるので、低回転域から高いブースト圧をかけやすくなり、ターボとの相性が良い。
今回は、直噴の制御をキメ細かくすることを狙い、直噴をアイドルから中回転域までとし、高回転側でポート噴射も併用して高出力に対応した燃料供給を行うようにして、高性能エンジンでありながらも燃費や環境性能との両立を図っている。
なお、ピストンは直噴でありながらフラットな冠面形状としてあり、直噴にありがちなキャビティ(凹み)はなく、ピストン重量やS/V比(面積と容積の比率)の悪化を防いでいる。
過給システムは、両バンクにそれぞれターボを装着したツインターボ式で、低慣性かつ高出力化を図れるモノスクロール型を採用する。サイズは低速域からのレスポンスアップを狙い、小さめ。ブースト圧は105kPaだ。また、近年のホンダ製ターボで積極採用される電動ウエストゲートバルブを装備している。
排気システムは、各バンクあたりふたつの触媒コンバーターと4つのテールパイプを採用したアクティブエキゾーストバルブシステムを備える。通常走行域ではサイレンサーを通過した排気が両サイドから排出。4000rpm以上ではサイレンサーを回避した排気が中央寄りの2本から行われて、リニアな排気音を演出する(モードにより異なる)。
サウンド面では、このほかにも吸気音をキャビンに伝達するサウンドクリエーターを備えるほか、車両のオーディオでも逆位相の音を発生させることで、不快なノイズ成分を打ち消すようにしている。
ハイパフォーマンスエンジンでは、出力性能だけでなく、NV(ノイズ、バイブレーション)特性が味や感性性能に大きな影響を与える。そこで、NVの最小化を目指し、最新のエンジンバランシングをはじめとする高精度生産技術を採用。
まず、ピストンはウエイトの厳密な管理でバラつきを抑えるほか、シリンダーはダミーヘッドボーリングを実施して、エンジン組み立て時のシリンダー歪を予め除去して、真円度の高いものとしている。これによって、ピストンの上下動のフリクションを徹底的に減らしている。
さらに世界でも類を見ないシリンダーヘッドのダミーブロック加工すらも実施される。これは、シリンダーヘッドをボルトで固定して、実際のエンジンに組み込まれたときのストレスを与え、カムシャフトの軸受部を加工するもの。
これによってカムシャフトの回転を滑らかにすることができる。シリンダーのヘッドボルトは非常に強い力でブロックやシリンダーを固定するので、その力で微妙な歪みが発生するが、ダミー加工を行うことで実際に組みつけたときに最適な形状とすることができる。
組み立てたエンジンは、約1時間、240㎞走行相当の慣らし運転が施され、その後バランス計測および調整が行われる。アンバランスがある場合は、クランクプーリーではバランス用取り付けボルトの取り付け位置で、フライホイール側では3種類の長さの違うボルトを組み合わせて厳密に調整する。これは、アイドリング付近など極低速域に効果が見られるという。