広いバンク角とドライサンプで低重心化を図る
NSXは開発途中で縦置きパワートレーンの採用が決まってから、専用エンジンが新規開発された。型式名はJNC型で、総排気量が3492ccのV型6気筒ツインターボ。最高出力が507馬力、最大トルクは550N・mと高い出力を発揮する。

他車種への流用などを加味しないNSX専用開発のため、エンジン骨格からスーパースポーツにふさわしい設計を盛り込むことができた。

まずV6エンジンのバンク角は75度という、現在の標準的なV6が採用する60度に比べるとやや広めである。これはエンジン搭載スペースに併せて、バンク角を広くすることでエンジン全高を低くし、低重心にするため。

また、ドライサンプ式の潤滑方式を採用することで、エンジン下のオイルパンの出っ張りをなくし、ウェットサンプと比較すると搭載位置を60㎜下げることに成功している。

エンジンの製造法もこれまでにない方法が採用された。グローバル開発ということに加え、生産数が量販車種と比べると少量なので、欧州のカロッツェリアが発注するような小規模の工房と呼ばれる規模のサプライヤーに依頼して生産している。
この関係もあり、シリンダーブロックとシリンダーヘッドの製法は、量産車で採用されるダイキャスト(金型鋳造)ではなく、砂型鋳造だ。この製法の特徴を活かして、より性能に特化した骨格づくりを行っている。砂型鋳造の強みは、中子(空洞部を作るための砂型)が入れられることで、より理想的な構造にできる。

たとえば、シリンダーブロックではクローズドデッキシリンダーが採用しやすくなり、シリンダー上部の振れを防ぐことができる。さらに、シリンダー間に中子を入れることで、ウォータージャケットを形成でき、冷却水を流すことが可能となりハイパワーのターボエンジンで必須の冷却性能を確保できる。
シリンダーヘッドでもこの製法を活かし、3ピースウォータージャケットを形成した。これは、冷却水の通路を燃焼室、エキゾーストポートの上部、下部の3系統に独立させたもので、それぞれに最適な流量流速を提供し、冷却性を大幅に高めている。

シリンダーは一般的な鋳鉄ライナー鋳込みではなく、最新テクノロジーであるプラズマ溶射シリンダーが採用されている。これは、シリンダー内壁に200ミクロン(=0.2㎜)という極薄の鉄粒子膜を形成するもの。
ピストンが上下しても摩耗しないような高い耐摩耗性や潤滑性をもちつつ、シリンダーの熱伝導率を鋳鉄比で52%も向上することが可能となる。これによって約3㎏の軽量化も行えるほか、ボアピッチを狭くする相乗効果も生まれ、外寸をコンパクトにすることができた。
なお、溶射後はホーニングという仕上げ研磨を行うことで、摺動抵抗を大幅に低減し、パワー、トルク、レスポンスの向上も図っている。
