NAエンジンながらリッター125馬力を実現
S2000は、本田技研工業創立50周年記念として、1998年に発表され、翌年4月から販売され2009年8月に生産終了。ホンダでは、S800から29年途絶えていたFR車の復活ということもあり、大きな話題となった。単にFRというだけでなく、じつにエポックメイキングなクルマで、ホンダがこだわり抜いた一台だった。
これまでのオープン2シータースポーツは、生産台数の多い乗用車、ファミリーカーなどのパーツを流用して、価格を抑えるとともに、軽量化に力を入れて運動性能を上げるというのがセオリーだったのに対し、S2000はほとんどの部品を専用パーツとして新設計。
まずエンジン。これはJTCCで活躍したアコードのレース用エンジン、H22Aベースの2リッターエンジンのデチューン版ともいえるF20C。量産車にもかかわらず、レッドゾーンが9000回転からはじまる比類なきエンジンだった。オイルパンもアルミ製で、バルブやバルブスプリングの素材は、F1やCART用のエンジンと同等のものを使用。
11.7の高圧縮を実現し、NAエンジンでリッター125馬力を達成。しかも環境性能も驚くほど優秀だった。このエンジンは縦置きのFR用エンジンで、贅沢にもS2000専用のユニット。
シャーシは、フロアトンネルをメインフレームにするハイXボーンフレーム構造。そのボディ剛性は、オープンカーながら、クローズドボディのインテグラ・タイプR(DC2)に匹敵した。
ホンダが「FRビハインドアクスル・レイアウト」と呼ぶ、フロントミッドシップレイアウトにこだわり、重量配分は実測でF49.5:R50.5というのも例がない。ホイールベースは2400mmで、トヨタ86の2570mmや、FD3Sの2425mmより短く、切れ味のいいコーナリングを実現。
ただし、リヤのサスペンションメンバーが、メンバーブッシュを介さない直付けタイプだったこともあり、乗り手を選ぶ、かなりピーキーな味付け(とくに初期型)だったのも確か……。またリヤブレーキの熱容量にも問題があり、その影響でサーキットユースではリヤハブが弱点にもなっていた。
また、22.2kg-mのトルク(AP1)に、1240㎏の車重というのは、少々ヘビーウエイトだった。同じ1999年デビューの、ランエボⅥのRSが、ターボ+4WDで、1260㎏だったことを考えると……。
全体的には、サーキットでのスポーツ走行を意識しすぎて、オープンカーらしくない、かなり“力んだ”クルマになってしまった感は否めないが、このサイズ、この価格で、このパフォーマンスという贅沢なクルマは、ホンダに限らず、世界中の自動車メーカーから、もう二度と出てこない可能性がある。
この希少性、この価値感が、生産中止になる前にもう少し知られていれば、もっと販売台数も伸びて、モデルライフも伸びただろうにもったいない。その存在は、遅ればせながら中古車になってから輝き出して、今現在、S2000の中古車価格は平均で200万円と高値をキープ。
歴史に残る名車の一台なのは間違いないのだが、ホンダはこうしたクルマの主要パーツの製造廃止が早いことで知られているので、それだけが心配。オーナーたちが、ずっとS2000が乗り続けられるように、ホンダにはぜひともパーツの生産を継続してもらいたいところだ。