ナイトラス・オキサイドを燃焼室内に吹くことでパワーアップする
映画ワイルドスピードや、古くは漫画「よろしくメカドック」でおなじみにニトロチューン。ボタンひとつで、ニトロを噴射させると、ドーンとパワーアップするというシロモノだ。
ニトロの正体は、ナイトラス・オキサイド(亜酸化窒素=N2O)という化合物。ダイナマイトの原料として知られる、ニトログリセリン(C3H5(ONO2)3)とは、まったくの別物で、爆発性はない。
ナイトラス・オキサイドには、大気中の空気の1.5倍の酸素が含まれていて、これがガソリンの燃焼を促進させ、爆発的なパワーを生み出す。たくさんの空気=酸素で、たくさんのガソリンを燃やすという意味では、ターボなどとある意味でパワーアップの理屈は同じ。
もうひとつ、ナイトラス・オキサイドは、ボンベ(タンク)のなかで、およそ100気圧、マイナス170度の低温で保存されているので、このガスをエンジン内に噴射することで吸気温度が下がり、空気の圧縮率も約1.1倍程度向上する。また気化することに伴い、周囲の熱を奪う(約マイナス60度)効果があり、冷却面でも大きなメリットとなる。
製品としては、米国のホーリー・パフォーマンス・プロダクツ社のナイトラス・オキサイド・システム、いわゆるNOS(ノス)が一番有名(ナイトラス・オキサイド・システム=NOSは同社の登録商標)。キットで20万円コースからあり、エンジン本体は無改造で取り付けられる。
NA2リッタークラスのエンジンで、NOSチューンでノーマルより200%もパワーアップしたというデータもある。そういう意味で、コストパフォーマンスが高く、アメリカではメジャーなチューニング手法のひとつだが、日本での普及度は今ひとつ。
タンクの容量に限りがあり、フルタイム利用できない点と、モータースポーツではレギュレーションで禁止されている競技が多いといったところが、その理由として挙げられる。
化合物としては、18世紀のイギリスで発明され、第二次世界大戦中、ドイツ空軍などが航空機の高高度でのパワーアップと、冷却性能の向上の秘密兵器として採用していた。医療分野では、麻酔の一種としても利用されることがあり、「笑気ガス」とも呼ばれている。