個人差はあるが40km/hで平常時の約半分になる
たった時速40kmでも、静止しているときと比べると、視野は半分になってしまう。人間の目は、ほかの動物に比べ、左右の目で同時に見ている範囲が広く、立体的にものが見える範囲が広いのが特徴だからだ。詳しく説明していこう。
草食動物、とくにウサギなどは、肉食動物から自分の身を守るために、約360度の視野があると言われている。もっともウサギは顔の側面に目が付いているので、片目の視野がそれぞれ200度近くあり、その代わり、片目だけで捉えている視野が広い分、立体感が乏しくなっている。
一方で人間は、一般的に両目で同時に見える範囲が約120度。その他に、左右それぞれの目で片目だけで捉えている範囲があるので、その範囲をプラスすると、最大視野は約200度ということになる。
写真はイメージだが、たとえば、時速40kmで走行中のドライバーの視野は、最大視野の約半分、100度ぐらいになってしまうと言われ、それが時速70kmだと65度、時速100kmでは40度まで低下するらしい(個人差がある)。
F1漫画の傑作「赤いペガサス」(ちょっと古いな)に、「時速300キロを超すスピードに、前方の路面は黒い三角形のピラミッドと化し、ベテランレーサーでさえ恐怖する、まるでトンネルを走り抜けるような視野の狭さ」というセリフがあったが、あれはけっこう的を射た表現だった。
また、スピードだけでなく、緊張することでも人は視野が狭くなる。剣聖、宮本武蔵は、剣の極意を記した『五輪書』の「兵法の目付といふ事」の項で、「目の付けやうは、大きに広く付くる目也。観見二つの事、観(かん)の目つよく、見(けん)の目よはく、遠き所を近く見、ちかき所を遠く見る事、兵法の専也(中略)目の玉動かずして、両脇を見ること肝要也」として、目の使い方についても、鍛錬、工夫せよと教えている。
現代の剣道・剣術の世界でも、「遠山の目付」といって、「一点を凝視するのではなく遠い山を見るように、相手の体全体を視野に入れること」と視野の広さを重視しているし、少林寺拳法には「八方目」といって、視野を広げ、その広い視野を保つための具体的なトレーニング方法も伝わっている。
そうしたことから考えると、優れたドライバーは、高速域でも常人以上に視野は広いと考えられるし、安全運転のためには、常にリラックスして、“視覚”を鍛えることも大事になってくるといえるだろう。