FRに転換したかったが市場が許さなかった!
それがポルシェ914の後継車であるポルシェ924、そしてポルシェ911の後継車となるはずのポルシェ928でした。トランスアクスル方式を採用したポルシェのFRスポーツカーは、優れたハンドリングと安定した高速性能を誇りました。
しかし、そのどちらも商業的に成功したとはいえませんでした。ターゲットとしたアメリカで「ポルシェはやっぱり911」という認識を払拭することができなかったのです。それでポルシェは諦めかけたポルシェ911を全面的に刷新した964を送り出すことになるのです。つまりポルシェはリヤエンジンを辞めたかったが、市場がそれを許してくれなかったということです。
もちろん技術革新がそれを支えた部分はあります。とくにFFが主流となっていくなかでタイヤの性能向上が大きく、それがリヤエンジンのアンバランスさを緩和してくれたことは間違いありません。
また、ポルシェはカレラ4という4WDモデルを登場させますが、これはトラクション性能を高める目的ではなく、前後重量配分を改善することが目的だったと、のちに設計者が公表しています。
前後重量配分として見れば、現代の水冷エンジンのポルシェ911は、それほど悪くありません。静止時に40:60だとしても、コーナリング性能はフロントタイヤに与えられる荷重が大きいので、むしろ優れているといえるでしょう。
しかしリヤオーバーハングにエンジンという重量物を搭載していることは大きなデメリットです。同じ前後重量配分だとしても、ミッドシップよりもヨーイングモーメントはかなり大きくなり、優れたハンドリングを作るのは難しくなります。
ポルシェは現在の状況にワクワクしているかもしれません。それはリヤエンジンを辞めることができるからです。いずれポルシェ911も電動パワートレインになります。モーターならミッドシップマウントが当然で、最も重量が大きいバッテリーはフロアなどに広く分散させることができます。ポルシェの技術力が真価を発揮するのは、そういう時代になってからかもしれません。