加速・減速・コーナリングのすべてに有利となる
人間の場合、軽佻浮薄な人物は軽蔑されるが、クルマに関しては、軽ければ軽いほど運動性能が高くなるので、望ましい。
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クルマに限らず、物体は「力を受けなければ、静止していたものはいつまでも静止しつづけ、動いていたものはその速度で等速直線運動をつづける」(ニュートンの運動の法則第一法則)。いわゆる「慣性の法則」に支配されている。
この場合、「力」というのは、簡単に言えば、「質量×加速度」(F=ma)で、要するに重たいものは動き出しが悪く、いったん動き出すと止まりにくいということになっている。
クルマの基本性能は、「加速(走る)」「減速(止まる)」「曲がる」の三つで決まるが、重たいクルマは、この三つの要素のすべてが苦手。
わかりやすいのは、ブレーキ性能。自分一人で運転しているときと、乗用車なら5人乗り、ミニバンなどなら7~8人と定員いっぱいまで乗車しているときでは、ブレーキをかける位置か、踏力を変えないと、同じ速度から制動しはじめても、同じ位置に停止できないのはおわかりだろう。
コーナリングも同じこと。いわゆる遠心力は、モノの質量に比例して大きくなるので(「質量×(車速の二乗)÷旋回半径」)、重いクルマほど、向きを変えるためには、より大きな力が必要となる。つまり曲がりにくい。
加速だけは話が別で、車重が重くてもエンジンパワーが強ければ、加速は負けない。加速はパワーウエイトレシオがものを言う世界だからだ。
だから重量が重くなっても、大きなエンジンや、ターボ+インタークーラーに四輪駆動にすると直線番長の出来上がり!
しかし、重たくてハイパワーなクルマは燃費が悪い。しかも、重いと止まらないので、ブレーキは大きくなって、また重たくなり、曲がらないので、タイヤ・ホイールも大きくすると、さらに重たくなって、重たくなったから……の堂々巡りの負のスパイラルへ。
反対に軽ければ、エンジンやタイヤが少々プアーでも、いつでもご機嫌。ロータス・ヨーロッパやユーノス・ロードスターが、何十年たっても、そのドライビングプレジャーが衰えないのは、車体が軽くて、重量バランスが秀逸だから。
だからといって、この21世紀にやたらとパーツを取り外したり、鉄板に穴ぼこをあちこち空けて軽量化するというのも、前時代的……。
ここはやはり、カーボン、アルミ、チタン、マグネシウム、ハイテン鋼などによる材料置換と、マスの集中化で、軽くて剛性の高い、フットワークのいいクルマを登場させてもらいたいところ。
人間には年齢と共に、重厚さと貫禄が必要だが、現在のスーパーカーの場合、上記なようなゴージャスダイエットが高級車の証となるのかも!? いずれにせよ、運動性能が問われるクルマには、軽さに勝る高性能はない。