安全面だけでなく生活を楽しくする側面も
先日、「自動運転技術で私たちの生活はどう変わる?」というテーマの公開シンポジウムが、120名を招待して東京・六本木ヒルズ内にある六本木アカデミーヒルズで開催された。
これは、朝日新聞社メディアラボが主催したもので、登壇者には、TVでもおなじみ、東進ハイスクール・東進衛星予備校 現代文講師である林 修さん、日産自動車の安徳光郎常務執行役員、実践女子大学人間社会学部松浦常夫教授、といった面々が並ぶ。
インフラの一部ともいえるクルマの大きな進化は社会が変わることにつながる。これまでハンドルに縛られていた時間が、新たな時間として創出される可能性もある、ということを前提に、昨今各所で言われている自動運転についての認識を再確認する機会となった。
シンポジウムのスタートとしてまず自動車を運転することについて、実践女子大で交通心理学を専門としている松浦教授からの講義が行われた。
まずクルマの運転の特徴として
1:絶えず注意が欠かせない
2:運転席に拘束されている
3:事故の脅威にさらされている
という3つのデメリットがあり、負担、ストレスが大きく、クルマの運転というのは決して楽な作業ではないという。
ストレスの原因(ストレッサー)には、長時間運転、渋滞、ほかの車両、歩行者、自転車、カーブ、気象条件の雨、西日、夜間、急ぎ、心配事、同乗者、自分自身、そしてそのストレスを受けるモデレーターの性格から、健康状態、睡眠、運転の習熟度や運転態度などさまざまなストレスの感受性が異なってくる。
ナビゲーターの林 修先生も、幼少期に両親がクルマのなかで必ずケンカをしたという思い出があり、運転のストレを再確認していた。
また、事故の原因の8割は発見の遅れだという。発見の遅れとは、わき見や考え事、ぼんやりしていたことなどだといわれている。発見の遅れとひと括りにされて統計には表れていないが、疲労運転や過労運転による居眠りなども実際には数が多いのではないかといった講義も行われた。
続いて日産の安徳常務執行役員からは、この8月下旬に発売予定の新型セレナに搭載される自動運転技術「プロパイロット」の解説が行われた。その機能は、スピード維持、追従・停止・停止保持、ステアリング制御の3つ。
設定した約30km~100km/hの車速で、車間距離を保つように制御し、車線の中央を走行するようにステアリングを制御(50km/h以下では先行車がいる場合のみ作動する)する。これにより、渋滞走行や長時間の巡航走行による運転負荷を軽減するという。
事故の9割以上が、ドライバーの原因によるものだとされているが、日産はクルマが人を守るという「セーフティ・シールドコンセプト」が運転支援の考え方。ドライバーに危険を近づけないようにクルマがサポートするというもので、ドライバーのミスをカバーするという考えだ。
もちろん、プロパイロットは自動運転のレベル2で、あくまでも運転の主体はドライバーである。それでも家族でドライブに出かけ、帰りの運転が気になって楽しめない、などということがなくなり、家族で目いっぱい楽しんで帰ってこられるようになるという。
つまり自動運転のよいところを利用するというスタンスが今の自動運転レベル2との付き合い方なのではないかと思う。
安徳役員は「このプロパイロットは、非常にラクなのでぜひ経験してもらいたい。そのために試乗できる機会を設けていきます」とコメントした。
また、トークショーでは、自動運転でドライブの楽しみは残るのか? 自動運転によるドライビングの矯正は可能なのか? といったことや、交通手段がないトランスポーテーション・プアに陥っている層の救済にも自動運転がひと役買うことになるといった幅広い内容が話された。
今回は日産のプロパイロットを中心としたレベル2の自動運転の話に終始したが、今後、このプロパイロットも拡大採用及び進化もさせていくということで、より多くのユーザーによる使用を経ればさらに面白い内容に変わっていくのだろうと思われる。今後も継続して、こういったシンポジウムが開かれることを期待したい。
(写真:青山義明)