ソフトなエンジンマウントが安定性を阻害
ジオメトリーという部分で言えば、直進安定性ももう少し向上してほしい。現在の数値はわからないが、キャスター角をもっと付けることで改善できるだろう。
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もうひとつ気になるのはエンジンマウントだ。マウントがソフトで加減速時の前後、コーナリング時の左右、回転方向に動いてしまう。限界域でなければほとんど気にならないだろうが、サーキットでグリップの限界を使用しているときに重いエンジンが動けば当然挙動に影響する。
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具体的にいえば、エンジンはミッドシップに搭載しているので、リヤのスタビリティが今ひとつであった。質感を考えればエンジンなどの振動をドライバーに伝えないため、マウントを柔らかくするというのはわかる。
だが新型NSXは2000万円を軽く超えるクルマだ。たとえばメルセデス-AMG GTが採用している可変エンジンマウントのような技術を使うなど、走りと質感を両立できる解決策を見いだしてほしかった。
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さて、今質感という話をしたが、パワーユニットの回転振動は少なく上質なフィーリングを示す。ボディ剛性も十分で、ダイナミクス性能をしっかり支えている。さらにその上の剛性を確保することで、路面からの入力や、エンジンやミッションなど回転部分から伝わる振動、走行中に発生する空気の渦による振動などを抑えることができる、いわゆる振動剛性も十分だった。
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新型NSXはリミッターを解除できるが、今回の試乗会では残念ながら解除が許されなかった。そのため180km/hまでとなるが、5速でリミッターに達した。NSXは9速DCTを採用している。スポーツ走行を考えれば、2〜7速はクロスにして繋がりを良くし、8、9速は最高速と燃費に充てればいいのではないだろうか。
具体的に言えば、2速を下げ、今の2と3の中間ぐらいに3速、7速までを順次引き下げるというギヤ比であれば、もっとスポーツドライビングを楽しめるクルマになるであろう。ただしDCTそのものの完成度は高い。ボクが乗ったなかでは最高といえるポルシェPDKまではいかないが、それに次ぐ変速スピードとフィーリングを実現していた。
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さて、細かく新型NSXの走りについて述べてきたが、単純にみれば決して悪いクルマではない。ただしスーパースポーツという観点で見ると、やや厳しい評価になる。最大のポイントは重量で、アルミフレーム、カーボンルーフなどを採用しているにもかかわらず1780kgという車重は、3モーターのハイブリッドシステムがゆえのもので、日本国内でライバルといえる日産GT-Rよりも重い数字だ。
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もし2年前にこの状態で登場していれば高い評価が与えられただろうが、現在はライバルの進歩も目覚ましい。ボクは世界のスーパースポーツファンたちに、新しい時代のホンダが作るスーパースポーツはこれだと衝撃を与えるような、世界唯一の存在として誇れるものがNSXのなかにあってほしかった。少なくともそれはSH-AWDではないと思う。まだ生まれたばかりの新型NSXの今後の進化に期待したい。
(試乗&リポート:黒沢元治/写真:小林 健・増田貴広)