◆課題はエンジン本体
エンジン本体の開発は、ある意味“過去”のことで、やり切っている領域だと思っていた。ホンダは1960年代の第一期も、そして圧倒的なチャンピオン・エンジンとして君臨した1980年代後半のターボ時代の第二期も、『エンジンのホンダ』の名をほしいままにしていた。しかし、今回の復帰には、回生という新たな分野が加わり、そこが弱点と思っていた。だがそうではなかった。
メルセデスが、2014年からの規定を想定した開発に早くから着手して優位を築けたのは、エネルギー回生の領域ではなく、エンジン単体だったのだ。
「エンジンのパワー、それはイコール燃費にもなりますが、性能差が大きい。MGU-HとKは、新たな規則のなかで大きい領域ですが、1周4メガジュールしかデプロイできない、あるいは、最大出力が120キロワットという上限はほぼ使い切ることができています。
今のF1はエンジン本体の燃焼効率が非常に高いレベルにあります。とくに、時間当たり100kgという燃料流量制限のなかでどれだけ馬力を出すかという競争がそのまま差になっていますね」
通常30%そこそこの燃料エネルギー回収率が、メルセデスは排熱回生まで含めると50%に到達するのではないか、という領域にある。そんな中で、エンジンのトップエンドのパワーががホンダのテーマでもあった。
「ドライバビリティについては、例えばターボラグは電気を少し使って“Eブースト”ができるので、それほど大きな問題になっていない。単純に、ピークパワーが足りないです。もともとレースエンジンの開発はほとんど出力の開発ですから」
具体的に、その“次なるタマ”はいつ投入されるのだろうか。長谷川F1プロジェクト総責任は、「鈴鹿まで待つ必要もなく、耐久性などの確認ができ次第、次のスパで入れられれば入れたい。いつ出すか、ボクが知りたい」と笑った。
この言葉から、“次なるタマ”にはそれなり以上の自信のようなものを感じた。
現在のテーマは、エンジン本体であることは見えた。開発のテーマは、どこに置かれるのか。
「問題は車速差です。たとえばホッケンハイムではトップスピードが10km/h、アゼルバイジャンでは15km/h遅かった。そこにはクルマのドラッグとエンジンパワーの問題があるので、一概にエンジンパワーではないかもしれないですが、だからと“車体のドラッグが悪い”とか、“エンジンパワーが悪いんだ”といっててもしょうがない」
マクラーレンとホンダは、別々の開発を進めるのではなく、チームとして邁進している、ということだ。お互いのあら探しは、進化の邪魔になっても後押しはしない。
「我々としては、パワーがあがればトップスピードが上がるんだよね、ということで、車速差を解消するだけのパワーを出してやろうじゃないか、と思っています。マクラーレン・ホンダはチームですから、エンジン側でカバーできるのが明らかなら、カバーすればいいんじゃないかという考えです」