高回転を求めるレーシングエンジンはショートストロークが主流
見てきたとおり、ボア×ストローク比は、かなりエンジンの特性を左右する、基本的な要素となっている。高出力=馬力は、トルク×回転数で決まるので(同じ排気量なら一分間に一回でも多く爆発するエンジンの方がパワーが出る)、レーシングエンジンやスポーツタイプのエンジンは、高回転型のショートストローク型が主流。
量産車にもかかわらず、最高回転9000rpmで売り出した、ホンダS2000のF20Cのピストンスピードは、23.24m/s。2.4L V8で、レブリミットが19000rpmだった時代のF1エンジンのピストンスピードが、約24m/sなので、ほぼF1級。現行(2014年以降)のF1は、1.6リッター V6ターボでレブリミット15000rpmなので、F20Cの方がピストンスピードは速いかも!
でもじつは、同じホンダのB18C(DC2に搭載)のピストンスピードは、8400rpmで23.25m/sと、F20C以上のピストンスピードだった。こちらはボア×ストローク:81.0mm×87.2mmで、ロングストローク型エンジン。
もともとバイクメーカーだったホンダは、ショートストロークの高回転高出力型エンジンがお家芸で、第2期F1の初期、1984年までは、極端なショートストローク型のエンジンの伝統を守っていたが、翌1985年の第5戦からロングストローク化した新型エンジンを投入。シーズン4勝を挙げ、ホンダF1 黄金期の幕開けとなった。
このとき、ホンダのロングストロークエンジンが成功したのは、ターボエンジンだったから。ショートボア×ロングストローク化して、バルブ径が小さくなっても、ターボチャージャーで空気はいくらでも送り込めるので、燃焼効率がよく(燃焼速度が速い)、燃費にも優れたロングストロークエンジンの長所が勝ったため。
ちょっとマニアックかもしれないが、名機のボア×ストローク比を振り返ってみると、特性や長所の活かし方がいろいろあって、各メーカーごとの考え方もわかってくるので、調べてみると面白いのではないだろうか。