前後50:50が理想形だがもっと重要なこともある
世に前後重量配分50:50をウリにしているスポーツカーは少なくない。たしかに運動性能、機動性の良さを考えると、前後の重量バランスは50:50がひとつの理想。
しかし、クルマの前端と後端が重くて、50:50で釣り合いが取れていたとしても、先端が重たいクルマは、慣性モーメントが大きくなるので、より大きなきっかけを与えないと曲がり出してくれないし、いったん曲がり出すと、今度はその曲がろうとする力=ヨーモーメントがなかなか収束してくれない。
ミッドシップ車が、「運動性能が優れている」と言われているのは、重量配分が50:50に近いというより、エンジンをはじめ車体の重量物が車体中央の重心近くに集まっていて、末端を軽くすることができるから。
つまり、クルマの運動性能でいえば、前後の重量配分の良し悪しより、重量物が中心に集まっている方がはるかに重要ってこと。そして車体や部品は軽ければ軽いほど、慣性モーメントは小さくなるので、軽さは重量配分より圧倒的に優先度は上!
フロントヘビーのFF車でも、車体が軽ければ戦闘力は、他の駆動方式以上、という競技車は少なくなかった(例:2代目ホンダ・シティGA型)。さらに言えば、スポーツドライビングを重視すればするほど、停止状態の重量バランス=静的重量バランスの意味合いは小さい。
F1をはじめレーシングカーはミッドシップが主流だが、静的重量バランスでいえば、前後35:65ぐらいでリアヘビーになっている。こうした重量配分だと、ブレーキング時の動的重量バランスが、ちょうど前後50:50ぐらいになるので、4つのタイヤのグリップ力を最大限使って減速できるので、制動力が高い。
また加速時は、リアヘビーの特性を生かして、トラクション性能が高く、コーナリング時は重量物が重心付近に集まっているので、運動性能が優れている……。
90年代のDTM(ドイツツーリングカー選手権)では、ベンツがFRのままライバルの4WD勢に対抗するために、車体中央に積んだバラストを、ブリ―キング時は前、加速時は後ろへ油圧で動かす、“ムービングバラスト”というとんでもないシステムを積んだレーシングカーが出現したが、レースのように最低重量規定がなければ、バラストを積むより軽量化した方が効率がいいはずだ。
というわけで、重量に関しては、
「軽量 > マス(重量)の集中化 > 前後重量バランス」
というプライオリティになっていると覚えておけば間違いない。だからといって前後重量バランスを軽視していいというわけではないので、やはりエンジンという最も重い部品を車体前方にマウントするFR車+FRベースの4WDに関していえば、前後50:50がひとつの理想形であることは、揺るがないだろう。