トヨタのテストドライバー成瀬弘さんの偉大さがわかる本!

ニュルブルクリンクの「2本の桜」が開花する!

「豊田章男が愛したテストドライバー」という成瀬弘(なるせひろむ)さんを主人公にした単行本が刊行された。作者の稲泉連さんに「城市さん(CARトップ編集長)は成瀬さんと親交があったそうですね。お話を聞かせて欲しい」という連絡があったのは、成瀬さんがニュルブルクリンク近くで悲劇的な事故で亡くなってから1年位たった、かれこれ4年前のこと。WEB CARTOP

上梓までずいぶん時間がかかったと思ったが、この本を読んで納得した。稲泉さんの丹念な取材力に驚くとともに、成瀬さんの果たした大きな役割を、改めて知ることとなった。 テストドライバーだった成瀬さんが、トヨタ自動車の豊田章男社長の運転の先生だったことは広く知られているが、「いいクルマを作ろうよ」というトヨタ社長としてのメッセージの原点と本当の意味が、よくわかる内容だ。

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これは、ノンフィクションというより経営学にも通じる内容になっていることに驚く。豊田章男社長にも成瀬さんについてお話を伺ったことがある。成瀬さんの話に及ぶと穏やかだった表情がフト厳しくなる。 本を読むと成瀬さんの「人となり」がうまく表現されているだけでなく、豊田章男さんとの関係が、単なる運転技術の先生と生徒という関係を超え、巨大企業のリーダーの考え方を大きく変え、経営哲学にまで及んでいたことに、極めて大きな感銘を受ける。WEB CARTOP

単行本の帯に「育ちも世代もまるで異なる師弟が紡いだ巨大企業再生の物語」とあるが、まさにその通りだと思う。僕自身、テストドライバーとしての成瀬さんは20年以上前から、雑誌インタビューを通して知り合っていた。トヨタの組織の悪口とも思えるようなことをはっきり言う人だな、本音でしゃべる面白い人だな、と思っていた。WEB CARTOP

普通、新型車の発表の時に聞く関係者の話は、そこまで良くできたクルマ? と思えるようなこともある。当たり前だが、自分の開発したクルマの欠点をさらけ出すことはない。ところが成瀬さんは、自分の目標には達していない話や、もっと改善したいことなどを素直に口にした。WEB CARTOP

そこは、僕が雑誌に書いていいことと、書かないことを制御できていたからだろうか、成瀬さんからいつもフレンドリーに対応してもらっていた。 「自動車ジャーナリストは運転の基本ができていない。ウチのニュルブルクリンクでのテストドライバー養成に誰か参加させないか」という相談を受け。実際に何人かのジャーナリストを紹介したこともある。WEB CARTOP

2010年、LFAの開発が終わりに近づいた日、聖地ニュルブルクリンクの道路で成瀬さんの乗ったマシンは反対車線にはみ出して、BMWのテストドライバーと衝突した。不思議なことに事故の起きる2か月前、イベントでお会いした成瀬さんはいつも以上に饒舌で、何と3時間以上にわたりクルマ作りについて語り続けた。 凄絶な事故現場には日本とドイツ原産の2本の桜の木が植えてある。

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