2016年の新ハースF1チームでレース監督として活躍する日本人
BARからルノー、そして今年からハースを支える小松礼雄
ポンポンと短い答が返ってくる。しかし、それは、彼自身の反応がいいこともあるが、大切な開幕を前にして、インタビューを早く終わらせたい気持ちにも感じた。 いや、だからいやな感じがしたわけではない、いまやることが明確に見えているから、きちんと対応はしてくれる。
だが、つまらない質問はしないでほしい、という暗黙のジャブ的なプレッシャーがかかる人だった。 それもそのはず、インタビューは2016F1GP開幕戦のスケジュールが始まる前日にお願いした。ニューチームとしてデビュー戦を迎えるハースF1チームの監督とも言える小松礼雄さんは、大切なデビュー戦を目前に控えていたからだ。
ーとにかく大変だ、と、クルマもゼロから作ったわけですから。
小松礼雄(以下、小松):たいへんですよ、ええ。
ークルマよりむしろ、新しいということで、チーム創りの方が大変な気がしますが。初めての人たちの集合体になるわけですから。
小松:たいへんですよ、それも、もちろん。
ーチームの中ではなんと呼ばれているのですか?
小松:いや、普通に、あやお、って呼ばれていますよ。
ーAYAOって、海外の人には発音しにくいんじゃないですか?
小松:いや、まぁ、適当に。
ーF1にきて何年になりますか?
小松:14年ですね。
ーそんなになりますか。
小松:2003年からですから。
ー新チームでスタートしたいま、何が苦労していますか? と言っても、すべて、ですかね。
小松:すべてですね、ホントにね。
ー逆に言うと、まぁ外からは面白いとか簡単に言えますが、面白いのでは?
小松:いや、面白いですよ、やっていて大変だけど。
ー面白いのはどういうところです?
小松:やっぱり、(新しいチームは)なんでも、型がないから、なんでもできることですね。
ー難しいけれど、面白い?
小松:自分で考えて、なんでも、よかれと思ったことをなんでもどんどん片っ端からできることは楽しいですよね。
小松礼雄さんは、ホンダ・エンジンを搭載するBARでF1人生をスタートした。その後、「まったく別もの」と思うルノーF1チームで、現在ウィリアムズのテクニカルダイレクターを務めるパット・シモンズの下で働くようになって驚いたことがあった。チームの中でとある提案をした。するとシモンズは、「わかった。スタッフを選んで、自分の責任でやってみろ」と言ったのだそうだ。そして「失敗してもいい。それが勉強になるから」と。小松さんは驚いて、でもモチベーションがギュ?ンと上昇した。
ー現在のハースF1チームの肩書としては?
小松:チーフ・レース・エンジニア。
ー去年までと何が違いますか?
小松:責任が違いますよね。肩書の名前は去年のルノーと同じだけれど、カバーしなければならないことが多いんでね。
ーそれは、新しいチームだから?
小松:新しいから、というのは、やっぱり、このチームのストラクチャー(構造)的に、現場での技術責任者に完璧になっちゃったから、全部そうですね。
ーやり甲斐はあるけれど参ったな、という感じですか?
小松:参ったな、っていうか、それをやるために来たわけだから、参ったな、ということはない(笑)。
ーF1に関係する日本の関係者に、ことあるごとに「御愁傷様」と言っているんです。やっている方が大変なほど、観ている我々は面白いので(笑)。
小松:まぁ、そりゃそうでしょうね(笑)。
ー今年、ライバルとしてどのチームを?
小松:いや、まだ、そういうのは、心の中ではあるけれど、あまり言いたくないんですよね。というのは、(赤ちゃんにたとえると)走る前に歩かなくちゃいけないという、とりあえずまず完走しなければいけないから、完走も出来ないうちから、どのチームに勝ちたいとか言っても始まらないんで、一歩一歩やりたいな、と。 このときはそう言ったが、じつはレース後に、「入賞はできるポジションにあると思っていた」と白状した。そして、こう続けた。「入賞できると思っていました。でも、6位になれるとは思わなかったけど(笑)」
ーレースエンジニアは、いま具体的に何をしているのですか?
小松:具体的には、レースウィークエンドの準備の段階全部とか、あとはクルマのスペック決めとか、レースウィリアムズークエンドをどう進めるかのランプランとか、ウィンターテストの運営とか、要は、技術関連の現場全部です。
ー説明し始めたらキリがない(笑)。
小松:そう。なんか問題があったら全部関わらなきゃいけないし。
ー普通、技術関係で現場に関わっている人は、金曜日が忙しくし、レースが始まると、いろいろ作戦の遂行に追われる、で、土曜日は比較的時間がある、というイメージですが。
小松:いやぁ、(時間は)ないでしょ、ぜんぜん。だって火曜日(金曜日にスケジュールが始まる3日前)もここ(チームのピットガレージ)を出たのが夜中過ぎたし、昨日は朝の6時だし。
ーいま何歳でした?
小松:40歳になりました。
ーじゃ、まだぜんぜん大丈夫な年齢ですね。
小松:いや、ぜんぜん大丈夫じゃないです、トシです(笑)。
ー体力的になにか感じることは?
小松:いや、眠いですよね。冬も、ずっと最高4時間くらいしか寝ていないし。厳しいので、やめちゃったメンバーもいるくらいなので。 デビューの2016開幕戦オーストラリアGPでは、ロメイン・グロジャンを、最初のタイヤ交換を引っ張って、1回交換の作戦を強行し、6位という殊勲のポジションを得た。レース後、「本当に嬉しい」と、厳しい冬を乗り越えて得た入賞を小松さんは心底喜んでいた。
ーホンダの復帰については、なにか。
小松:ないです。ノーコメント(笑)にしておいてください。
ー印象としては、ハースはどんなチームですか?
小松:まだ、どんなチームもないですね。これから色づくりをしていかなきゃならないから。そこら辺も面白いですね。でも、個人個人の人はいいですよ。みんな、新しいチームでやる気があってね。
そして曇天から雨が落ちていた土曜日とはうって変わった青空が見下ろす日曜日、6位という殊勲のポジションでゴールしたレース後に、日本人プレスが彼を囲んだ。 “今日は寝る時間ができそうですか?”と訊くと。即座に帰って来たのは、「飛行機で寝るだけです」という言葉だった。
ーここまでの成績は想定していなかった。
小松:6位は、実力では取れない。リタイアとかいろいろあって(結果的に6位になれた)。
ーレース中のグロジャンはどうでしたか。
小松:マッサ(ウィリアムズ)についていこうとしてトッ散らかった。なので、無線で、ウィリアムズとうちはレースしているんじゃない、フォースインディアといい感じでやっているんだからと。そうしたら落ち着いたみたいで。ラップタイムは出るけれど、コンシスタントじゃなくて、コンマ5秒くらい上下するから。とにかく彼は、マッサ+ウィリアムズの方が速いのについていこうとするから、ついていかなくていいから、と。
ロメイン・グロジャンは、ドライビングセンスはハイレベルだが、精神的に不安定なところがある。ガラスの心臓と言われていた。乱暴者のレッテルを貼られたグロジャンは、ルノー時代を過ごした頼りになる小松礼雄を、ハースと契約するにあたって、「是非」とチームに推薦した。声がかかった小松は迷った末に、新たな挑戦ができるハースを選んだ。
小松:とにかく完走を目指そう、と言ってきた。完走したら絶対に結果はついてくると。とはいっても、ポイント圏内、と思ったので、でもここまでついてくるとは思わなかったけど(笑)、よくて8位とか。6位は考えられなかったです。 でも、上(ハースの前)でいなくなったのはライコネン+フェラーリとクビアト+レッドブルだけ。フォースインディアに勝てたから。ウィリアムズに対しても、勝てないまでも、最後はいい勝負が出来ていたし。
どんどんこれ以上よくしていかないと。でも、いまはアップアップな状態でこれだから、悪くないでしょ。 予選はもっと行けると思っていたけれどしょうがない。今の規則だと、ピットインして作業を終えて出るまでに1分でやらなくちゃだめだけれど、2分かかる。それで30秒くらい足りなくて2回目のアタックに出られなくて、Q1落ちになっちゃった。でも、これ以上出来ないからしょうがないですね。
それもあって、新しい予選方式は勘弁してほしいです。でも、これでわかったから、バーレーンでは、1分でやらなきゃだめだよ、と。バーレーンにいくまでに死ぬほど練習するだけだから。 でも、よかったです。ずっと寝ないでがんばってやってきて、肉体的についていけなくてやめた人も何人かいるけど、がんばった分だけ報われたので。やめかかっている人がやめないで済むかもしれない、という意味で6位はよかったです。
レースを終えた小松さんは饒舌になっていた。それは心のそこから、辛いけれど充実した人生を謳歌できているからだ。 とはいえ、小松礼雄の闘いは始まったばかり。デビューの2016年もまだ21戦のうち、1戦を消化しただけである。
(写真:山口正己)
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