2代目NSXも先進性と革新性を武器に新たな価値観を提供
昔話はあまり好きではないが、カリフォルニアの砂漠リゾート地パームスプリンスグで新型NSXに触れ、否応なしに強く思い出したのだから仕方ない。新型NSXを試乗に行き、初代NSXを思いながらスーパーカーに着いて考えてみた。
1990年代を中心にフェラーリを始め、世のスポーツカー作りに影響を与えたとされるのが、1990年に登場した初代NSX。今でこそ軽量を求めてボディにアルミが使われることは特別な技術ではなくなりつつあるが、それを1990年に量産車に採用した。しかもフルオールアルミ製。
全ては走りのための選択だ。加えてより高い運動性能を求めてミッドシップレイアウトで作り込んで来た。その軽量かつ重量バランスに優れた走りは、軽快で爽快で気持ちが良く何より速いのが魅力。その和製スーパースポーツカーを意識して仕上げられたフェラーリ355と比肩されながら、90年代パフォーマンスモデルのひとシーンを作り上げたのは、クルマ好きのなかでは記憶に新しいことだろう。
改めてNSXとは絶対的な高性能は当然として、世のスーパースポーツカー作りや市場に先進性と革新性を武器に、このクルマでしか提供できない新たな価値観を与えることを大事にしているのかもしれない。新型NSXのアクセルをひと踏みしてコーナーを抜けた時、そんな思いを抱いてしまったのだ。
ドライサンプ化されて低重心になった縦置き3.5リッターV6ツインターボエンジンと電動モーターが繰り出す573馬力・645Nmの加速は、強烈なのは当然としてモーター特有の瞬時に必要な分だけトルクが立ち上がる鋭さがある。この言葉が意味する内容はとても重要。
なぜならエンジンでアクセル操作へのレスポンスを求めたときに、瞬時に反応させることを求めると結果としてアクセルの踏み込み量以上にエンジンが吹け上がり出力がでるなど素直さが犠牲になりやすい。しかしモーターは、アクセルの踏み込み速度と踏み込み量にも、全てが意のままで忠実にクルマを加速させることができる。この鋭いのだが過激にはならない、そんな世界観がスポーツ走行をより奥深く堪能できるようになる。
後輪はエンジンとモーター駆動だが、前輪は左右それぞれに専用のモーターを搭載。その前輪左右のモーター駆動をハンドルの操作などドライバーの意志を反映させるように稼働調整すれば、クルマを積極的に曲げることも、曲げない…言うなれば安定させることも自由自在。これによりNSXの走りは、今までに得たことのない新世代感の走りを示す。
通常ならハンドルを切っても曲がらないような速度でコーナーに侵入しても、少しオーバーアクション気味にハンドルをさらに切り込むとグイグイと曲がる。通常ならフロントが外に押し出されて曲がらなくなるカーブ出口でのアクセルの踏み込みにも、オンザレールのままグイグイ強烈に加速する。
最終的にエンジンで加速する後輪出力が高く、アクセルを踏み過ぎればミッドシップ車のようにリアタイヤが滑るが、横滑り防止装置がそれも予防。言うなれば、誰もが気軽にかなり豪快なペースで走ることができるまさに新世代のスーパースポーツモデルなのだ。
これらベクタリングや様々な電子制御はタイヤのグリップ限界を高めるものではなく、人間ではできない方法でクルマの性能である4つのタイヤを使いこなすものであり、必ず限界はくるので無理は厳禁なのはいうまでもない。
しかし、それを速さ追求の究極レベルで操れた時の世界は、今までに体験したことのない刺激と興奮に満ち溢れており、またNSXは新たな世界を作り出したと感じるものだった。