単純に比較はできない2台
FCXクラリティは燃料電池本体をフロントシートの左右間に置いていた。当時としては非常にコンパクトで、画期的なレイアウトだったが、それによる問題は少なくない。キャビンのスペースが圧迫されるのはもちろんだが、燃料電池を置くことを前提とした専用プラットフォームが必要で、当然ながら応用はしづらいものとなる。
実はトヨタMIRAIは燃料電池をフロントシートの間に置いたパッケージとなっており、その点でいえばホンダの一世代前の燃料電池車と考え方は似ているといえる。しかし、クラリティフューエルセルは燃料電池とモーターほかの駆動に関わるシステムをV6エンジン並というコンパクトサイズに凝縮することで、そのすべてをフロントノーズに入れることに成功している。
これによりキャビンは内燃機関のFF車と同等の広いスペースを確保することができているのだ。また、燃料電池の配置を前提としていないことから、プラットフォームの応用性も上がる。実際、発表会の場において本田技研工業の八郷隆弘社長は、このプラットフォームは電気自動車やプラグインハイブリッドに展開可能であることもプレゼンテーションしている。
こうなると「クラリティ フューエルセル」という名前が意味深になってくる。5名乗車としながら、空力にも優れたこのボディには発展性が期待できるのだ。あくまで想像だが「クラリティエレクトリック」や「クラリティ プラグインハイブリッド」といったバリエーションがあり得るのかもしれない。
もちろん全面的にホンダが先行しているというわけではない。クラリティ フューエルセルが採用するアルミに繊維を巻き付けた水素タンクは、樹脂を主体にしているトヨタMIRAIに対して、一世代前という印象も受ける。
もっとも、MIRAIが二次電池にニッケル水素を使っている(ホンダはリチウムイオン電池)ように、実績ある技術を選択していることは技術的なディスアドバンテージとはいえないので、単純に比較はできない。それにしても、通常のガソリンエンジン並のスペースに駆動系を含む燃料電池システムを収めたというのは画期的だ。
クラリティという新プラットフォームの応用力を高めただけでなく、既存のプラットフォームを応用した燃料電池車の可能性まで期待させるのである。
(文:山本晋也)