内燃機関を利用でき、燃料電池より量産性などでメリット
環境対応車の最右翼として燃料電池車が注目を集めているのは、水素を燃料に大気中の酸素と反応させて発電することで水しか排出しないゼロ・エミッションであると同時に、なおかつ現時点では電気自動車に比べて航続可能距離を長くとれるというメリットもある。さらに再生可能エネルギーによって発電した電気によって水素を生み出せば、CO2排出量をゼロにカウントできる。
しかし、次世代の環境対応車のトレンドは水素燃料電池で決まったわけではない。とくにCO2排出量を重視する欧州では、実質的にCO2を出さないカーボンニュートラルという観点から次世代へのアプローチが進んでいる。
その中で、フォルクスワーゲン・グループのアウディは、以前から『e-gas』と呼ぶ人工メタンガスの研究を進めてきた。水を電気分解して生成した水素と大気中のCO2を反応させることでメタンガスを生み出すというアイデアは、ある意味で地球が何千年もかけて原油を作り出したプロセスを短時間で再現するという風にも言える。
水素をそのまま使うのではなく、もうひと手間かけてメタンガスを生成するメリットは、従来からの内燃機関を利用できること。技術的に確立したCNG(天然ガス)車を『e-gas』で走らせるというのがアウディの提案である。すなわち、量産性やロバスト性において、燃料電池車よりもメリットがあるといえるのだ。
そのアウディから、『e-gas』について大きな進展が期待できる発表があった。
すでに独自にプラントを建設、実証試験を開始していたアウディだが、従来の『e-gas』生成方法は高温・高圧下における化学触媒反応によるもので、決して効率に優れた方法ではなかったと考えられる。
暖房機器などのエネルギー利用の大手、フィースマン・グループとのパートナーシップにより新たに生み出された方法は、微生物を利用するというもの。より低温で、低圧(およそ5気圧)の環境で人工メタンガスを生み出すことができるというのだ。
まだ実験段階ということだが、大気中のCO2を燃料に変換するという『e-gas』は、カーボンニュートラルな内燃機関の持続可能性を高めるアイデアである。世界中の自動車メーカーが電動化をキーワードとしている昨今、次世代車といえばモーター駆動となることが既定路線となっているとも思えるが、内燃機関によるクルマを動かし続けたいという思いに応える研究も確実に進んでいるようだ。