「給油時などに起こるガソリンべーパーを考える」って何?

ガソリン蒸発時の大気汚染のストップを

 横浜市にある横浜情報文化センターで、神奈川県が主催した『「ガソリンべーパー」を考える』というタイトルのシンポジウムが開催された。

Kuroiwaガソリンべーパー(Gasolene Vapor)、聞き馴染の無い方のほうが多いだろう。その名の通りガソリン蒸気。ガソリンの気化したもののことで、ガソリンスタンド特有のニオイといえばわかるだろうか? 自動車から、給油時、走行時はもちろん、駐車しているときも常に大気中に放出されているもの、である。

 この放出されるガソリンべーパーは、人体に有害性がある「揮発性有機化合物(VOC)」の一つ。VOCは、自動車の排ガスや塗料、工業用洗剤や印刷の際にも排出されるが、他の化学物質と結びつくことで、光化学スモッグ(光化学オキシダント)を引き起こしたり、PM2.5の原因物質になるとも言われている。

 アメリカでは、2006年から米国内で販売される全乗用車が、このガソリンベーパーを95%以上を捕集するORVR(Onboard Refueling Vapor Recovery)車となっている。一方、現在日本ではその規制がない。大気の環境を考え一刻も早くその規制をすべきという声が上がって議論の最中だという。

Kuroiwa2今回のシンポジウムでは、黒岩祐治神奈川県知事も挨拶に訪れた。9都県市で、ORVR車の早期義務付けを環境大臣および国土交通大臣に要請を行なうなど知事自ら活動を展開しており、「ガソリンべーパーが漏れ放題。神奈川からこの問題を動かし始めていきたい」と語った。

Yamadaそして、「日米欧におけるガソリンべーパー対策の現状」と題して独立行政法人交通安全環境研究所の山田裕之主席研究員による基調講演が行なわれた。

Vapor環境問題に対する施策はさまざま行なわれてきており、特に自動車の排出ガスについては非常に厳しい規制が行なわれ、特にディーゼル車ではポスト新長期規制をクリアしたクリーンディーゼル車が登場し、すでに非常にきれいな排出ガスとなり、有害物質は改善されてきた。問題として残ってしまっているのが、今回のテーマとなるガソリンべーパーであるのだ。

 前述の通り、アメリカでは、車両に対策を行なったORVR車の普及が進んでいる。もちろん日本メーカーの車両も米国で販売する車両はORVR車となっているのだ。しかし、米国で販売している同じ日本メーカーの車両でも国内仕様ではORVR車になっていない、という残念な結果となっている。自動車先進国だけでなく東南アジアでも対策を取っている国々がある。一日の気温の変化、高温になる地域では、このべーパーの問題は非常に大きな影響があるから、である。乗用車のガソリン車率の高い日本だけに残念な結果ともいえる。

具体的な対策は、車両からかガソリンスタンドからなのか?

 基調講演の後、このシンポジウムの第二部としてパネルディスカッションが開催された。こちらでは、自動車評論家で日本EVクラブ代表でもある舘内 端さんがコーディネーターとして、4名のパネリストとともに「ガソリンべーパーを考える~ORVR車って何?~」という題目で討論が行なわれた。

panelist山田さんの基調講演を元に、では、どうやってガソリンベーパーの大気放出を減らしていくのか、ということを中心に話が進む。

Vapor2ガソリンベーパー問題の対策方法としては、車両での対策、そしてガソリンスタンドでの対策という2通りの対策があるという。2007年の環境省の資料によるとVOC年間排出量(120万トン)の10%がガソリンスタンドで排出されており、その12万トンの内の内訳は、給油時の排出べーパーが58%、荷卸し時の排出ベーパーが42%という。

 車両への給油やタンクローリーからのガソリンスタンドへガソリンの荷卸しする際、タンクから揮発したガソリンがて気体になっているためである。

Vapor3車両の対策として採られているのが、ORVR車。ORVR車は、燃料タンクの給油パイプに活性炭フィルターを内蔵しており、これで捕集されたべーパーが回収され、エンジンが稼働中に燃料として再利用される。国内でも軽自動車などを除く乗用車にもっと小型の回収装置となるチャコールキャニスターが装着されているが、そのもっと大きなキャニスターにする必要がある。また給油口もキャップにを開けてもべーパーが解放されない仕組みとなっている。既存車種からORVR車に変更するのは厳しい。そのため新車時に装着するしかない。

Vapor5一方、ガソリンスタンドでは、STAGE IIと呼ばれるべーパーをタンクローリーに回収するシステムが確立しており、すでに一部で採用されている。しかしこの対策で数百万単位の費用が掛かる。

Vapor4また、単純にORVR車が普及したとしても、給油装置側でも、給油ノズルの寸法や、給油流速などさまざまな決め事が発生するわけだが、これも早期に規格を成立させる必要がある。

 いずれにせよ、自動車の平均保有年数が伸びている昨今、こういった対策は少しでも早いほうがいいわけだし、少しでも環境を壊さない方向へシフトしていくことを期待したい。

  


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