スバル製ではなくトヨタの元町工場で作る深いワケとは?
86に期待のGRMNが正式に発売された。限定100台、600万円…ホーッ!、と言う話ではない。このクルマの作り方にトヨタのとんでもない野望が隠されていた。そのキーマンである86のチーフエンジニア多田哲哉さんを直撃した!
▽86のGRMNが出るぞ、と聞いて2年以上たっているような気がしますが、どうして時間がかかったのですか?
多田「理由は二つあります。一つは、ニュルブルクリンクのレースに出て優勝したクルマの技術を本当に86GRMNにフィードバックさせたい、と真剣に取り組んだこと。ガズーレーシングのマイスター・オブ・ニュルブルクリンク(GRMN)を名実共に完成させたい。二つ目は、86GRMNはスバル86ではなく、トヨタの元町工場で作り上げたい、という思いです。スバル製が悪いというわけではなく、86がベースだけど、ほぼ新しいスポーツカーを作り上げる、という思いなのです。改造車とは違い、正式に生産ラインで流し、完成検査表を付けて国交省の認可を獲る。それがいかに難しいことか。部品供給の調整を含め、スバルには随分と無理なお願いをしました。これが逆の立場だったら、トヨタ側はノーだったでしょうね(笑)。」
▽二つの理由はわかりましたが、疑問も二つ(笑)。レースで培った技術の還元と言っても、現在はレース車と生産車は全くの別物でしょ。
多田「(豊田章男)社長から、ニュルで鍛えた86レースカーの技術を生産車に移植しろ、と言われたとき、私も同じように、レース車と生産車は違う、と言ったんですよ。そうしたら社長に「だからスポーツカーがダメになったんだ」と言われ、本気でGRMNの仕様を考えました。」
▽それは凄い話!それで二つ目の理由がわかりました。ポルシェのカップカー(同一車種で戦うレースカー)は確か量産車と同じラインで作りますよね。あのやり方?
多田「BMWもZ4の4〜5千万円するGT3を、普通の生産ラインで流しています。わずか年間80台程度のクルマですよ。これまでのトヨタだと、そんな非効率なことは許されない。技術的にも、あまりにも大変です。」
▽86はGRMNの100台のためにそんなことまでしますか。600万円なんて、嘘みたいな安い価格ですね。
多田「テクノクラフトに出して限定車を作るのとは、わけが違う。以前500台のLFAのために元町工場にラインを作った。ああしたノウハウを生かしたいですね。」
▽そういえば、多田さんはBMWとのスポーツカー共同開発も担当されていますね。進んでいますか?
多田「もちろん、BMWとのアライアンスについては発表していますし、着々と進めています。」
▽1年以上前になりますが、ミュンヘンにあるBMWの研究所に行ったとき、トヨタさんとの共同開発はどうですか?とお聞きしたら、開発のプロセスやお金のかけ方の部分がずいぶんと違う、という答えに驚いたことがあります。
多田「以前、86の開発でスバルさんと開発の方法、考え方が違って、とても苦労したといいましたが、BMWとはそんなものではありません(笑)。」
▽それでも進めているんでしょ?
多田「そのうち双方から何らかのコメントが出るでしょうから楽しみにしていてください。」
多田哲哉
86生みの親、チーフエンジニア、2015年4月からのトヨタ組織改革でモータスポーツ本部のスポーツ車両統括部長となる
TOYOTA GAZOO Racing公式ホームページ
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