メーカー直系ならではの極上レシピが取り揃えられている
ワークスチューナー。特定のメーカーを専門に取り扱うだけではない。ときには開発協力やレースへの参戦、人材交流など、ただのチューナーとは一線を画するのが「ワークスチューナー」だ。ベース車の素性を知り尽くしているからこそできる、巧みなチューニングが施されたデモカーを紹介しよう。
〈スバルBRZ〉
BRZ発売3年が経ちSTIによるチューンドコンプリートモデル「tS」が300台限定で発売。2013年にも同じ車名のクルマを発売しているが、今回はその進化版だ。ベース車は、リヤのアッパーバックパネルおよび、同フロントリンフォース板厚アップでステアリング正確性が引き上げられた4世代目のD型。今回のtSは新たにショックアブソーバを以前のショーワ製の複筒式からビルシュタイン製単筒式に変更。フロントは倒立式となり、剛性アップ。さらにフレキシブルVバーなる補強パーツを新たに奢った。フロントのストラットタワー上部とバルクヘッドをまさにVの字で結ぶこのアイテム。中間部にはピロボールが与えられ、軸方向の入力には強く、曲げ方向には「いなし」を与えている。STIが以前からもっていたこのシステムを、タワーバーではなくVバーとしたが、この変更もちろん衝突試験などの検証を経てだ、たったひとつの補強パーツであっても、安全面まで含めて解析を行なうあたりが、メーカーチューンド。
さらには静粛性向上のため高周波を抑えるインシュレーター(遮音材)をインパネ、トランクトリム、ドア周辺に配している。案の定、新生tSを走らせてみると、滑り出しから明らかに以前とは違う静粛性に気づく、エンジン音もロードノイズも軽減され、スポーティな音だけが適度に伝えられる感覚があった。
走行は引き締められた印象を強く覚える。タウンスピードでは路面の凹凸をなぞるようにコツコツと動く。だがスピードレンジを高めて行くと、それが快適に即座に収束するいい感覚だ。
ステアリングの剛性感および応答性が引き上げられていることは驚異だった。微操舵で即座にリヤサスが追従を始めるのだ。STIによれば応答性は以前の30%増し。クルマが小さく軽くなったのか、と思えワインディングでは軽快そのものだ。それでいて、ワンダリングが出そうな状況でもシッカリとした直進性をもっていることに再び感心する。
あらゆる環境でリニアリティが高いこと、それこそがtSのもち味といっていいだろう。ニュルブルクリンクの荒れた路面で蓄積したノウハウが活かされていることは間違いない。
〈ホンダS660〉
軽自動車を本格的なミッドシップスポーツとして仕上げたホンダの人気車S660をさらにスポーティに仕上げるためのパーツを無限がリリース。
空力パーツは、ラジエータのホットエアが効率よく抜けるエアアウトレットが追加された軽量FRP製のフロントトランクフード、スポイラー形状を加えながらよりレーシングカーの雰囲気を取り入れた左右のフェンダーだ。
オープンボディのルーフ部は、ノーマルの幌製のソフトロールトップを置き換え式のハードトップに。重量は12kgほどでソフトトップより重いが、サスペンションを固めバランスを取っている。リヤフェンダーや大型リヤウイングも装着され、外観はさらにアピール。
サスペンションはスプリングレートを硬くして上下運動量を減らし、車高を下げコーナリング限界特性を向上。乗り心地は確かに若干増したゴツゴツ感を硬く感じるが、ハイスピードコーナリングでの走行姿勢はより安定方向になっている。コクピットの変更箇所はわずかだが、マニュアルトランスミッション車用にクイックシフターを装着し変速操作性が向上、小気味よい変速が可能だ。
マフラーにはスポーツサイレンサーを装着。見た目のスポーティさも増幅だが、排気効率を向上したことでターボの過給レスポンスもよくなり、排気音を聞く楽しみも増している。
〈日産GT-R〉
試乗のGT-RはNISMOからリリースされる「Nアタックパッケージ」。「N」は市街地サーキットの独・ニュルブルクリンク、全長22kmにおよぶ難攻不落の旧北コースだが、GT-Rはここで2013年に7分08秒679の量産プロダクションカー世界最速ラップタイムをミハエル・クルム選手により叩き出し、世界を震撼させた。
このネーミング仕様のGT-Rは、フロントとリヤに機械式LSDを組み込み、大きなリヤウイングを装着してダウンフォースを向上。サスペンションもチューニングされている。室内はバケットシート2シーター化で換装されまさに最速仕様そのもの。
走らせてみても、ガチガチの前後LSDはやや古風に感じられ、それによって快適性は著しく損なわれているが、これがニュルでタイムを出したベストセッティングなのである。また、日常で使うために、もう少しマイルドなほうがいいという人には、オリジナルの4シーターを生かした仕様も用意されている。LSDやインタークーラーパイピングなどは省かれるが、価格は半額に近い。速さか、実用か、世界最速プロダクションカーで仕様が選択できるとは、うれしい限りだ。